コラム
» 2009年10月26日 08時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:日本郵政の人事は渡りではないのか? 問われる民主党の説明責任

日本郵政の西川善文社長の後任として、斉藤次郎元大蔵省事務次官が起用された。しかしこれは、「官僚依存からの脱却」を掲げ、天下りの全面禁止を主張してきた、従来の民主党の主張とは反する人事。この点を民主党政権はどのように説明するのだろうか。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 政治というのは、国民の側から言えば、見え方がすべてである。その観点から言うと、最近の民主党政権は政権政党として未熟さを露呈しているように見える。

 その1つが日本郵政だ。小泉首相の郵政民営化路線の見直しを掲げる民主党が政権を取ったのだから、西川善文社長が辞意を表明したのは当然であるとしても、後任に斉藤次郎元大蔵省事務次官の起用というのはあまりにも解せない話だった。「官僚だからといってダメだというのはおかしな話だと思うよ」と亀井郵政改革担当大臣は言う。もちろんその通りである。しかし「官僚依存からの脱却」を掲げ、天下りの全面禁止という主張をしてきたのは現政権の与党である民主党ではなかったのか。天下りという観点から言えば、斉藤元次官が日本郵政の社長になるというのはいわゆる「渡り※」ではないのか。

※渡り……官僚が天下り先で再就職を繰り返すこと。

 従来の主張を変えてはいけないとも思わない。政権を取れば現実的に取りうる路線というのは限られてくるからである。しかし、従来の主張と違うことをやろうとするのなら、その理由を説明しなければならない。自民党政権のときは、長年のおごりからか、説明責任というのが果たされないままになし崩しで変わることも少なくなかった(小泉首相以降、安倍首相、福田首相、麻生首相と「改革路線継承」と言ったが、やったことはむしろ逆のことが多かったのがその好例である)。

 民主党政権でそこがいちばん変わらなければならないところであったはずだし、鳩山首相もそう言っていたはずである。それが透明性であり説明責任ということだ。しかしこの人事に関してはそこがまったくない。

そもそも郵政民営化の目的とは

 もともと郵政民営化の最大の眼目は、競争の導入と郵貯・簡保の資金の切り離しにあったはずである。その民営化のどこに問題があるというのかがよく分からない。へき地の郵便局が閉鎖されてユニバーサルサービスができない? 郵便だけでなく郵貯や簡保もユニバーサルサービスをすべき? 行き過ぎた競争の導入が問題? 

 本来的には、郵貯や簡保が300兆円を超えるようなカネを集め、それが金融機関としての通常の運用ではなく、かつては特殊法人などへの貸付資金となり、今は国債を買うことで国へ資金を供給しているということが問題なのである。

 国が市場を通じて資金を調達していれば、国債を発行しすぎれば長期金利が上昇し(金利を上げてくれなければ、国へ長期資金を貸すというリスクを取ることができない)、それによって歯止めがかかるという構造があるはずだった。その歯止めがまったくかからない日本の特殊な背景を支えていたのが郵貯や簡保である。だから地方と国を合わせて860兆円もの借金をすることが可能だった(しかも米国と違って、日本の国債はほとんどが日本国内で消化されている)。

 現に、現在でも郵貯、簡保資金の80%は国債で運用されているのである。国にとっては都合のいい財布に違いない。それが民営化されて株式も民間に売却されれば、国にとっては財布のひもを民間に渡すということになる。借金大国の日本にとっては具合が悪い。だから株式の売却を中止し、大物の元大蔵官僚をすえて財布のひもをしっかり握っておこうということなのだろうか。それが民主党の言う「あるべき日本の姿」なら、極めておかしな話なのである。

民主党の説明責任

 日本郵政の問題に典型的に出ているのは、いったい民主党はこれをどうしようとしているのか、そのビジョンが見えないということである。見直しというのはいいとしても、どう見直すのかがまだよく見えない。今度の臨時国会ではこの辺りを亀井大臣や原口大臣がどう説明するのかが見物である。

 そもそも2005年の郵政選挙では国民は郵政民営化を選んだ(郵政だけを争点にした偏った選挙であるというのは民主党の主張でもあったはずだ)。そして今回は郵政民営化見直しを選んだわけではない。つまり国民にとっては、郵政民営化の見直しというのは、そう優先順位の高い問題ではないはずだったのに、民主党はまた大きな火種を抱え込んでしまった。

 参議院の補欠選挙結果を見る限り、まだ民主党に追い風が吹いているようだが、民主党政権と国民とのハネムーンが年末まで持つのかどうか、「成田離婚」などということにならないかどうか、政治の行方に暗雲が漂ってきた。

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