カー・オブ・ザ・イヤーから見る――2009年、エコカーの位置づけ神尾寿の時事日想・特別編(3/3 ページ)

» 2009年10月23日 15時20分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3       

 前述のとおり、今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーは「プリウス」が獲得した。筆者はこの結果は順当だと思うし、クルマとしての完成度の高さ・魅力を鑑みれば、当然の結果だと感じている。しかし、筆者自身はCOTY選考委員として「インサイトに10点」を投じた。それはなぜか。この場をお借りして、以下、筆者の評点と理由を公開したいと思う。

ホンダ「インサイト」

エコドライブの世界観を広げた インサイト に10点

ホンダ「インサイト」10点

 まず、クルマ単体で見れば、今年のイヤーカーはトヨタ『プリウス』がふさわしい。ハイブリッドカーとしての性能やクオリティ、コストパフォーマンスという観点では、プリウスはインサイトを明らかに上まわっている。

 それでも筆者は、ホンダ『インサイト』に「10点」を投じた。そして、プリウスは「7点」。なぜか。それはインサイトが、プリウスとは異なるハイブリッドカーの在り方を提案し、ドライバーのエコ意識向上に貢献。さらにデザインや商品企画において、ユーザーの裾野も拡大したと考えたからだ。

 とりわけ高く評価したのが、インサイトの「エコアシスト」機能(参照記事)。これはドライバーにエコドライブに必要な情報を提供し、エコドライブを促し支援することで総合的な燃費性能を向上するというものだ。インサイトは“ドライバーも一体となって燃費性能を向上しよう”というコンセプトで、そのために「情報」をうまく使っていた。ハイブリッドシステム単体での燃費性能向上にこだわり抜いたプリウスに対して、インサイトには「ひと(ドライバー)」もまたクルマと一体であるという意識を強く感じたのだ。

 また、インサイトはインターナビの装着率が約65%もあり、エコグランプリ(参照記事)を筆頭にテレマティクスを用いたエコドライブ支援も積極的に行っている。ICTの技術・サービスをフル活用し、ドライバーとともに「エコドライブ」を推進しようという姿勢はすばらしいと思う。

 もう1つ、デザイン性の高さとユーザー層の裾野を広げたことも、インサイトの功績だろう。インサイトのデザインについては、実は私よりも妻が高く評価していた。これは数字にも表れており、ホンダによるとインサイトは、「女性購入比率が4割」もあるという(参照記事)。また購入年齢層もプリウスより若く、「30〜40代がオーナーの中心」だ。今までのハイブリッドカーよりも若年層・女性に売れたことは、とても重要だと思う。

 むろん、インサイトへの不満もあった。なかでも大きかったのが、横滑り防止装置の「VSA」など安全装備の充実でプリウスより見劣りしたこと。また、インサイトのシステム燃費が2代目プリウスにも及ばなかったことだ。これらのマイナスポイントもあり、本音では「10点」ではなく「9点」を付けてイヤーカーに推したかったのが偽らざるところだ。

トヨタ自動車「プリウス」7点

 ハイブリッドカー、そしてクルマ単体で見れば、今年もっとも優れた1台であることは間違いない。燃費性能向上に向けたハイブリッドシステムの完成度の高さ、充実の安全装備、車室内の快適性など、総合力では今年最良のクルマである。

 しかし、残念だったのは、「情報」を用いてドライバーのエコ意識を高めて、ドライバーとともにエコドライブを推進するという工夫でインサイトに見劣りしてしまったこと。今回のモーターショーで発表された『SAI』に搭載されるESPOがプリウスに搭載されていれば、間違いなく筆者はプリウスに10点を投じていた。

 また、若年層や女性への浸透という点では、もっと努力してほしいと思う。とりわけ女性に支持されるデザイン・商品企画が弱いと感じるので、今後に期待したいところ。

フォルクスワーゲン「ゴルフ」5点

 DSI+TSIの「小排気量ターボとツインクラッチのシーケンシャルMT」の組み合わせは、テクノロジー的にすばらしい。これらはトヨタやホンダのハイブリッドシステムに匹敵する、今後のクルマを支える技術だと思う。また、今回のゴルフは走行安定性や静粛性でも優れており、全方位ですきのないクルマに仕上がっている。

 唯一の不満点は、日本のエコカー減税に当初から対応できなかったこと。今後、このような地域・国ごとのエコカーインセンティブは増加するので、地域市場への適合努力をもっとしてほしい。

 とはいえ、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーにふさわしいクルマとして5点を投じた。

三菱自動車「i−MiEV」2点

 電気自動車(EV)として完成度が高く、この分野の走り・性能における「スタンダード」となり得るクルマ。将来、三菱のEVがイヤーカーになる日も近いのではと感じた。その未来に期待して2点。

ボルボ「XC60」1点

 全世界標準導入となった「シティ・セーフティ」のコンセプトと、それを日本に持ち込むために行った努力がすばらしい。XC60というクルマは日本ではやや大きすぎると感じたが、シティセーフティを評価して1点。

特別賞 MOST ADVANCED TECHNOLOGY「プリウス」(トヨタ自動車)

 今回、完成度を高めた「THS II」と、そのほかに実装された燃費向上のための新技術。それらは世界でも飛び抜けて技術的なリードをしていると考えて、MOST ADVANCED TECHNOLOGYに推した。

特別賞:MOST FUN「i−MiEV」(三菱自動車)

 ガソリン車として「楽しい」と感じた日産の『フェアレディZ』と迷った。しかし、i-MiEVはEVとして、きちんと「走る楽しさ」「操るうれしさ」を構築しており、EVは乗って楽しいと興奮させられた。次世代のクルマが楽しいと、前向きに感じさせてくれた。その点を評価し、MOST FUNに推した。

特別賞:BEST VALUE「レガシィシリーズ」(スバル)

 安全性能の高さや新トランスミッションによる燃費性能向上といった要素もさることながら、筆者が高く評価したのが、今回新たに設定された「SIレーダークルーズ」だ。

 これは高速から低速域まで利用できるACCであり、価格が10万円台に抑えられているのが特長。そして、このSIレーダークルーズを搭載すると、『レガシィ』はロングドライブで快適で、混雑時のノロノロ運転でも疲れない「万能のロングツアラー」になる。高速道路1000円時代にふさわしい1台になるのだ。こうした総合的な価値を評価し、BEST VALUEに推した。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.