政権交代で不動産流通の仕組みは変わる?――さくら事務所 長嶋社長インタビュー大出裕之の「まちと住まいにまつわるコラム」(2/3 ページ)

» 2009年10月23日 08時00分 公開
[大出裕之,Business Media 誠]

中古住宅流通を活性化させるために

 長嶋氏は2009年の7月に民主党の委員会に呼ばれ、これまでの持論を展開したそうだ。委員会の中心となっていたのは参議院議員で羽田グループの長老である前田武志氏。

 「当時のテーマは、中古住宅流通の活性化でした。これまでの日本の政策は、新築持ち家がいろいろな面で優遇されるものでした。しかし、住宅は買った瞬間から価値が落ちてしまい、家を買ったことが貯蓄にならない、という状況になっています。高度成長期には地価が上昇していたため、住宅価値の下落を相殺できて良かったのですが、その仕組みは根本的に変える必要があります。

 新築持ち家については長期優良住宅の基準ができ、一定の形を作った感がある(資産価値が下がりにくくなる仕組みができた)と思います。次が中古住宅と賃貸の分野。国土交通省はすでに取り組んでいたのですが、途中で政権交代になってしまいました。

 民主党は『ありとあらゆるものをそのまま引き継がないで、すべて白紙に戻してゼロベースで考える』とおっしゃっていますが、ここ数年、住宅行政に関わる国土交通省の官僚の方々はすごく頑張っていたと思っています。『基本的には同じ方向性を引き継ぐ形でいいのでは』と私は思っています」

 委員会ではさまざまな話題が出たようだが、長嶋氏は住宅市場の現状と課題について話をしただけであり、各方面の話を総合して政策集にまとめあげたのは、あくまでも民主党とのことだ。長嶋氏はオープンな形での住宅流通を推進するため、次のようなアイデア出しをしたという。

  • 取り扱い物件を両手取引にする(売り主と買い主の両方から手数料をとる)ために情報を自分だけで囲ってしまい、中古流通が阻害されることを改善する。例えば、両手取引は結果として両手になるもの以外、原則として禁止する
  • 媒介契約(仲介会社に物件売却などの媒介を依頼する際に結ぶ契約のこと)で、専任を廃止し一般だけにする(複数の不動産会社が人と住まいのマッチングに参加できる)
  • 仲介手数料は現状の設定だと低すぎる。下限を上げれば両手取引を無理にする必要もなくなる。手数料自由化を議論してもいい
  • 買い主からは手数料を取らず、売り主だけから手数料を取れば、一次取得の参入障壁を下げやすい
  • 国が試験運用を始めた住宅のデータベースの推進
  • 売買時点での建物の健康診断(ホームインスペクション)の推進
  • 国土交通省令に定める、設置しなければならない宅地建物取引主任者の人数を現在の5人に1人から、段階的に全員に
  • 宅地建物取引主任者試験内容と更新制度の見直し

 「両手取引禁止も例えばの話で、そこだけ切り取って話題にすると、さまざまな誤解を生むでしょう。極端に言えば、消費者が安心できる取引の仕組みが整い、中古住宅流通が円滑になれば、私はどの方針でもいいと思っています。これらには合意形成が必要です。

 新築住宅の価格はこれから下がっていくことになると思いますが、『価格下落のスピードが国民の購買力の低下に追いついていかない→そのため中古が選ばれる』という構図がしばらく続くと思います。うちの事務所が担当する案件でも、以前だと新築を選んでいるような方が、中古を選ぶようになっています。今は、中古分野の情報をどれだけ整備できるかが、今後の不動産業界にとって必要だと思います」(長嶋氏)

さくら事務所の長嶋修社長

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