“夜の世界”に異変? クラブ通いにも「定額制」の波相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年10月22日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
前のページへ 1|2       

ニーズをとらえた“定額制”

 とはいえ、「夜のクラブ活動」が根絶やしになったわけではない。最近、とみに注目を集めている銀座のクラブがある。なぜこのクラブが注目を集めているかと言えば、その答えは「定額制」にある。

 「老舗文壇バーの多くは、代金がいくらになっているのか全く把握できず、請求書が届くまでビクビクの日々が続く」(某文芸担当編集者)ことが常だった。が、この新興クラブの場合、「1人当たりいくらできっちり精算してくれる明朗会計がウリ」(別の文芸担当者)なのだという。

 この店は、数年先までスケジュールが詰まっているある人気作家が頻繁に出没することでも知られる。「センセイに執筆依頼する目的で出入りを始めたが、存外に安かったので常連になった」(同)との声も少なくない。

 文壇バーに限らず、昨秋のリーマンショック以降、銀座や六本木界隈の高級クラブは急激に売り上げを減らしている。そんな中、都内各地の繁華街では高級クラブの何割かが「定額制」にシステムを変更し、客の確保に躍起となっている。こうした流れが、出版界ご用達のお店にも波及し、経費削減の渦中にいる編集者たちのニーズをがっちりとらえたわけだ。

 「あの店(件の新興クラブ)がナンバーワンになった」……とは某大手版元の編集幹部の弁。ナンバーワンの意味する所はこうだ。経費節減に躍起となっている同社経理部は、経費が使われたレストランやクラブの明細を毎月社員向けに公開している。かつては先の項で触れたような文壇バーがランキング上位にいたが、最近はこの新興クラブが常に上位をキープしているという。一方で、「作家を遊ばせ、自身も夜の街で情報を仕入れて仕事に生かすというかつてのスタイルは、2度と復活しないかもしれない」(編集幹部)との本音も漏れ聞こえてくる。

 誤解を恐れずに言えば、作家や編集者は遊んでナンボだと筆者は考える。実際、筆者自身も夜の街で拾った世間話が創作のヒントにつながるケースが多々あったからだ。

 しかし、業界全体が経費削減という大波に萎縮し始めると、作家や編集者の遊びののりしろが減り、ひいてはこれが作品に悪影響を及ぼすのではないか。大酒飲みを自認する筆者(ほとんど自腹飲み)は、真剣に夜のデフレ現象を憂いている。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.