コラム
» 2009年10月22日 08時00分 UPDATE

相場英雄の時事日想:“夜の世界”に異変? クラブ通いにも「定額制」の波 (1/2)

「作家」と呼ばれる人たちは、どんな所でお酒を飲んでいるのだろうか。編集者とともに銀座の高級クラブに繰り出し、派手に飲んでいる、といったイメージを持つ人も少なくないはず。しかし昨今の不況の影響を受け、こうした現象は過去の“遺物”となりつつあるようだ。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 作家と呼ばれる人種は日頃どんな所で酒を飲んでいるのか。担当編集者や版元の重役とともに銀座や六本木の高級クラブ、俗にいう“文壇バー”に繰り出し、派手に飲み歩くというイメージを持っている読者も少なくないはず。しかし、こうした現象は過去の遺物となった感が強い。出版不況の度合いが日増しに強まる昨今、夜の文壇事情にも確実に異変が生じている。今回の時事日想は「経費」という切り口で出版界の苦しい事情に触れる。

衰退顕著な“文壇バー”

 「この壁のシミは、◯△先生が担当編集者を殴ったときに付いたものよ」――。

 数年前、作家デビュー間もない筆者が版元幹部に連れられ、銀座の某クラブに繰り出したときのこと。店のママが筆者を店の隅に案内してくれた。壁紙には黒く変色したシミ(恐らく血痕)が残っていたのだ。

 このお店こそ、既に他界された大作家が泥酔し、担当者を投げ飛ばして大けがを負わせた有名な現場だったのだ。シミ見学の後は、筆者の母親と同年代とおぼしきママから、店に集う多数のベテラン作家にまつわる逸話・伝説、あるいは文壇バーでの立ち振る舞いをお教えいただいた。

 筆者は自身の嗅覚で安い飲み場所を探すことが好きなタチ。また、あまりにも高名な先達が集うお店の故、この文壇バーを再訪問する機会はなかった(多分、今後もない)。こうした文壇バーに出入りするのが夢だったと何人もの先輩作家から聞かされたが、先に触れた通り、こうした由緒正しいクラブやバーから、最近急速に客足が遠のいているのだとか。

 その理由は明解だ。8月20日付の時事日想「経費ゼロに耐えられるか……記者は自腹取材で鍛えられる」でも触れた通り、業界大手を中心に、「猛烈な経費カット作戦が展開されている」(某誌編集長)からに他ならない。

 この銀座の老舗クラブのような店は、「経費を湯水のように使えた時代ならいざ知らず、最近は大きなイベントの打ち上げ時くらいしか経理が領収書を受け取ってくれない」(同)という。

 お叱りを承知で言えば、多くの作家は執筆に追われ、引きこもりがちとなる。編集者が気分転換にと作家を誘い出し、夜の街でストレスを発散させ、モノカキの滋養を補給してこそ次なる作品へのエネルギーが湧いてくるはずなのだが、昨今はこうした慣習がつとに減っているようだ。

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