『黄昏流星群』はサッチーの写真集を参考に――『島耕作』の弘兼憲史氏が語る劇的3時間SHOW(3/3 ページ)

» 2009年10月20日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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島耕作シリーズはエンタメ50%、情報50%

『社長島耕作』

弘兼 私は今、島耕作シリーズと『黄昏流星群』という2つの漫画を連載しています。島耕作シリーズは『モーニング』で『社長島耕作』、『イブニング』で『ヤング島耕作』を描いています。

 島耕作シリーズはサラリーマンをリアルに描いた漫画なのですが、非常に難しいところがあります。1つは、漫画の進行時間と現実の時間がまったく同じということです。1983年、私が35〜36歳の時に連載を開始したのですが、それから年が明けたら必ずお正月の話題を書いているので、1年に1つずつ年をとっていくのです。それで、60歳くらいになってあれだけ活躍していたら、やはり社長にしないといけないだろう、ということで社長にさせました。

 島社長は今、中国やロシアなどに行って、いろんなアイデアを出しているのですが、その成果が出るのは実は5年〜10年先です。普通の漫画だったら「さて、5年後」という風にして、成果が出たところを描けるのですが、それが描けないので風呂敷を広げて閉じる間もなく、次の風呂敷をどんどん広げていかないといけない、というちょっと難しい作り方を強いられています。これはなかなか今までの漫画になかったと思うのですが、苦労している点です。

 また、島耕作シリーズは同世代の方々が読んでくれている漫画なので、かなり正確に書こうと思っていて、“エンタテインメント50%”“情報50%”というスタンスで描いています。したがっていい加減な情報は描けないので、米国が舞台なら米国に行って取材する、ロシアが舞台ならロシアに行って取材する、インドにも行く、中国にはもう6〜7回行っています。現地の工場の人たちや、現地で働いている日本人たち、あるいは現地に法人を立ち上げる時の法律関係の人たちからつぶさに情報をもらって結構正確に書いているので、自分で言うのも何ですが、向こうで事業をする参考にはなると思います。

野村沙知代さんの写真集が参考になった

『黄昏流星群』

弘兼 『ビッグコミックオリジナル』で連載している『黄昏流星群』は50歳〜60歳の中高年を主人公にしたラブストーリーです。漫画のラブストーリーの主人公というのは大体10代〜20代、私の妻の柴門ふみの漫画でも30歳前後で、50歳〜60歳を主人公にした漫画なんてちょっと今までなかったと思います。でも、思い切ってその分野に入ってみました。読む人はいるかなと思ったら、結構若い方も読んでくれている。

 僕が高校生のころ、『シャレード』や『昼下がりの情事』を見ていると、ケーリー・グラントやゲイリー・クーパーのような50歳ぐらいのおっちゃんが恋をしている。高校生の僕は「あんなおっさん恋をするのかな」と思っていました。しかし、自分はもう62歳ですが、この年になってもやはり恋心というものは消えないので、恋愛というのは創作の永遠のテーマだと思いました。それで中高年のラブストーリーを描きました。

 ただ、ここで苦労話があって、大人の漫画なのでいわゆるベッドシーン、裸が出てくるシーンというのは避けて通れません。しかし、若い人の裸はグラビアなどを参考にして描けるのですが、60歳ぐらいのおばさんの裸は今まで見たことがないというか、どうやって見たらいいんだろうというので編集者に「ちょっと資料ないか」と聞いたら、そういうのがあるんですね。神田に芳賀書店というフェチな本を扱っている本屋があって、『熟女クラブ』とかいろんなものがありました。一番参考になったのが野村沙知代さんの出された写真集ですね。水着を着ておられましたが、腕のところ、ちょうちん袖のようになった、たるんだお肉というのはなかなか参考になりました。

 体の中にNK細胞という免疫細胞があるのですが、これが中高年になっても恋をしたり楽しいことをすることで活性化するらしいんですね。だから、「『黄昏流星群』のように皆さん恋をして、楽しいことをして免疫機能を高めて長生きしましょうよ」ということで、同世代に対するエールみたいな漫画なんですね。今までこういう漫画をほかに見たことがないですが、これからこういう漫画が少しずつ増えていくのではないかと思いつつ日々漫画を描いています。


 次回は弘兼氏の講演の後に行われた、『モーニング』編集長の古川公平氏、『ビッグコミックオリジナル』編集長の吉野彰浩氏との対談の模様をお伝えする。

 →次回に続く

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