ウォルマートVS. アマゾン 仁義なき価格戦争の行方は(1/2 ページ)

» 2009年10月20日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」がある。


 「もし、『Webにおけるウォルマート』があるとしたら、それはウォルマート・ドット・コムだ」

 これは、ウォルマート・ドット・コムのラウル・バスケスCEOの言葉だという。近年、米国のビジネス・メディアでは、「Webにおけるウォルマート=Amazon」という見方が日に日に強まっていたが、その騒音を打ち消すような挑戦的な発言。「我々のゴールは、品揃え、ビジター数ともに世界最大のWebサイトになること」と続けた。

 米国時間10月15日、話題の新刊10冊を巡り、米ウォルマートが仕掛けた価格抗争に対して、Amazonが間髪を入れず迎撃、同日の夕方までに、ウォルマートがさらなる値下げで反撃するという白熱戦となった。通常の小売価格が30ドル以上するハードカバーの新刊を卸値を大きく下回る10ドルで売り出すということで始まった競争は、現在はウォルマート、Amazon両社ともに9ドルを最低価格として落ち着いている。

 しかし、ウォルマートは「Web上のロウ・プライス・リーダーとしての地位を誇示するためなら、どこまでも低価格を追求する」と、徹底抗戦の意図を表明。「世界最大のリテーラー」と「オンラインの巨獣」の一騎打ちは、どうやらまだ当分は決着がつきそうにない。

 今回の価格抗争は、たまたま書籍というカテゴリーを巡ったものだが、ウォルマートとAmazonの競争の本質は「書籍カテゴリー」だけを問題にしたものではない。Amazonもウォルマートも、「世界最大のブックストア」になりたいわけでは決してないのだ。

 米国の小売市場では天下無敵の地位を築き、あらがう競合をいとも容易く蹴散らしてきた「ベントンビルの巨人」ウォルマートが今、本気でAmazon転覆を企てている。それはなぜか。Amazonが近年、顧客のマインドシェアを奪い、ウォルマートの縄張りまで着々と攻め込んできているからだ。

 ウォルマートは「世界最大のリテーラー」。その事実は明白だが、米国では「Web」と言われて真っ先に「ウォルマート」を思い浮かべる人はまずいないだろう。「Web」と言えば、やはり「Amazon」だ。

 Amazonはもはや「世界最大のブックストア」ではなく、「世界最大のWebリテーラー」としての確固たる地位を築くことに成功した。「Amazonに行けば、欲しいものが必ず見つかる」、しかも「一番、安いものが見つかるに違いない」という認識が、消費者の頭の中に定着している。創業から10年余りにして、AmazonはWebショッピングのデファクト・スタンダードになってしまった。

 消費者は、Webショッピングの「検索エンジン」としてAmazonを利用する。今年第2四半期には、ゼネラル・マーチャンダイジング・カテゴリーの売り上げが、元来の主力商品であったメディア・カテゴリー(書籍、音楽CDなど)の売り上げを初めて超過した。

 ただのWebショップではなく、100万を超える中小の販売業者(サード・パーティ・セラー)と買い手を結びつける「マーケットプレイス・モデル」は、従来型の小売りの常識を根底から覆す。2008年のデータを見ると、サード・パーティによる販売件数は前年比33%増、販売額も36%増というように、すさまじい勢いで伸びている。

 さらに驚くべきことに、米国の消費者向けeコマース取引件数の3分の1がAmazonを通して行われているという。消費者のマインドシェアだけではなく、Web上の市場(いちば)のプラットフォームとしての、Amazonの圧倒的ドミナンスがこの数値からはうかがえる。

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