“上から目線”の記事はもういらない……政権交代とメディアの関係相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年10月15日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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地方の視点欠如

 「今後数年間、超難関の中高一貫校出身者は採らない」――。

 2、3年前、ある在京メディアの人事担当幹部がこんな宣言を行う一幕があった。先の項目で触れた様なトラブルがこの社の中でも起こったことが主因だ。また、地方に配属されたエリート意識の強い東京生まれの若手記者が、地元政界や経済界関係者を見下す様な態度をとり、彼らとの間で深刻な摩擦を生んだことも伏線となった。

 このメディアの関係者は「地方の高校、地方の国立大出身者をあえて一定数の割合で選んだ」と明かす。

 地方出身者獲得の背景には、受験勉強に明け暮れて名門校に入り、バランス感覚の欠けた特権意識の強い若手記者を作らないという目的のほか、「地方の目線で取材し、記事を書ける記者がいなくなれば、中長期的に、地方での収益減に発展する恐れがあった」からだという。また「田舎者の視点がなくなれば、中央官庁の官僚と同様に“上から目線”の報道ばかりとなり、顧客が離れてしまう」との危機感もあったようだ。

 先の総選挙では、自民党のベテラン有力議員の多くが落選の憂き目にあった。この中の何割かは政治家一家に生まれ、東京で育った二世、あるいは三世のセンセイたちだ。選挙区こそ親の代からの地方地盤だが、「二世、三世のセンセイ方は東京の学校に通い、東京中心の生活を送るうちに地元との間に意識のズレが生じ、それが埋まらないままに自民党の惨敗につながった」(某県幹部職員)との側面があることは否めない。

 広告不況にあえぐマスコミ界も、長年与党の立場にあった自民党が大敗したことと同じ様な環境に置かれていると筆者はみる。

 「地方活性化を声高に叫ぶメディアの論調は多いが、自民党の落選した議員と同様にズレがある。東京から施しをしてやるというトーンの記事ばかり」(同)との声に、最近頻繁に地方出張を繰り返す筆者は出くわす。

 地方出身者を採用し、一人前の記者に育てあげるには一朝一夕にはいかない。だが、政治の世界で地方の反乱が顕在化した現在、メディア界も同じ轍を踏まないためには、真剣に田舎者の視点を取り入れる必要があるとみている。

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