『咲-Saki-』『鋼の錬金術師』の田口浩司プロデューサーが語る、儲かるアニメの作り方劇的3時間SHOW(4/6 ページ)

» 2009年10月09日 10時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

黒字になるアニメの作り方

田口 今、私たちが出版社として見えているお客さんというのが、この4つです。さきほど言った魚ですね、悪く言えば。さらに魚を引っ掛けるためには、ルアーを選んで、魚が食いつくような動きをしなければいけません。ですから、まず魚のいるところを探す(ウケるジャンルを探す)、次にその魚が好きそうなルアーを決める(作品を決める)、3つ目としてそのルアーをいかに魚が食いつくように動かすか(アニメスタジオを選ぶ)ということが大事だと思います。

「切っても切れない関係」(田口氏)というアニメスタジオのBONES

 出版社がテレビでアニメを流すために何が必要かというと、制作費と広告宣伝費、それから流すための提供料です。制作費はピンきりで、1話当たり1000万円〜2000万円くらいの幅があります。「1話分の制作費×話数」で全話分の制作費が計算できます。提供料もピンきりで、あまり詳しい数字は言えないのですが、深夜帯の全国5局〜7局ネットぐらいで、2クール(6カ月)流した時に我々(出版社)が負担している提供料は5000万円ぐらい。U局だとその半分ぐらいです。(キー局で1年間、土曜18時に放送した)『鋼の錬金術師』クラスになると、総額は知りませんが、我々が出さないといけなかったのは5億円でした。

 テレビアニメ放映をして、出版社はどうやって利益をあげるのかというと簡単です。支出は、今言った提供料、ものによっては制作費の出資をしないといけないこともありますが。収入はDVDやマーチャンダイジング商品が売れた時の原作の印税の部分、それと出資した場合は出資分に応じた配当、そして何と言ってもアニメ放映によって原作が売れた利益、これが支出を上回らないとどうしようもないということです。

 『咲-Saki-』第1巻の実売はアニメ放映4週前、本当に低い数字でした(約500部)。しかし、アニメ放映1週前にぐんと上がってきて(約3000部)、アニメ放映開始週(約4500部)、そして2週目(約1万7000部)でどっと火がついている。3週目(約9000部)は若干下がりましたが、アニメが人気になったので、それから下がらなかったんですね。ずっと維持してやってこれたということで、アニメ放映前の部数が1巻当たり平均15万部だったものが、平均35万部まで伸びたという現象が起きました。

 僕が「分からない」と言った『黒執事』第1巻の売り上げは放映前からぐんぐんと上がっていて(3週前約4000部、2週前約8000部、1週前約1万2000部)、「これ以上、上にいくのかな?」と思っていたのですが、結局上に行ってしまったんですね。アニメ放映開始2週目に山を迎えた後(放映開始週約1万4000部、2週目約1万7000部、3週目約1万6000部、4週目約1万4000部、5週目1万3000部)、6週目に次の巻が出た時にまたポンと上がるというような動きをしています(約1万4000部)。『黒執事』の1巻は放映前は60万部だったものが、放映終了後91万部。そして、この間100万部に届いたという数字になっています。

 『鋼の錬金術師』第1巻の売り上げは、2003年に第1期を放映する前は15万部でした。これが1年間のアニメ放映が終了すると150万部までいきました。

 最終的に200万部までいったのですが、ここで計算してみましょう。我々は『鋼の錬金術師』のテレビアニメをやるために5億円出さなければなりませんでした。『鋼の錬金術師』は1冊420円なのですが、作家さんへの印税や印刷代、紙代などを支払って、出版社にいくらぐらい残ると思いますか? ざっくり言って150円です。1冊売れ伸びたら150円の利益が出るということは、5億円入れたわけですから、アニメによって330万部売れないと赤字になるんですね。330万部売れてやっとトントン、そこから売れ伸びて初めて利益が出るという感じです。

 『鋼の錬金術師』の場合には原作が第5巻まで出た状況でテレビアニメが始まって、放映中にあと3巻出て、計8巻出ました。すると、1巻当たり平均して42万部売れ伸びると損益分岐点に達するという状況になります。幸いにして第1巻の売り上げが15万部から150万部に伸びて、伸びた部数が135万部、8巻分で1080万部売れ伸びたということで損益分岐点は割と早めにクリアしました。実際お金(提供料の5億円)を使うことに関して、社内の役員会の経営会議でかなりもめましたし、失敗したら首がとぶんじゃないかというぐらいにドキドキしてやった結果です。

 『鋼の錬金術師』はアニメ(第1期)が終わった後も続刊が非常に売れていたので、今回第2期のアニメをやるに当たって、「(単行本が売れ伸びる分で提供料を)回収できるだろうか?」という部分はありました。第2期は4月にスタートして半年経ったのですが、1巻当たりの売り上げが放映前は平均190万部だったものが現在では平均210万部になっています。約20万部売れ伸びているという状況です。ただし前回と違うのは、全部で23巻まで出ているという部分です。23巻まで出ているということは、その20万倍ですから460万部売れ伸びたということで、これもなんとか損益分岐点はクリアできた。今から利益をとっていくのかなと考えています。

 こんな感じでやっていますので、どのジャンルのマンガで、何部ぐらい売れていて、アンケート人気はどれぐらいで、この時間帯にアニメを放映すると「保守的に見てもこれぐらい売れ伸びるだろう」ということで、出版社としての出資金額を決めていけば、大体損はしないと思いませんか?

 僕が子どものころ、『鉄腕アトム』の時代にはアニメのスポンサーにお菓子会社などが入っていました。せいぜいアトムのシールがその会社のお菓子についていたというぐらいですよね。『仮面ライダー』や『マジンガーZ』の時代になると、スポンサーに玩具メーカーがついて、キャラクターのフィギュアなどを販売する時代が来た。その時代が長く続いていたのですが、最近、我々やアスキー・メディアワークスさん、角川さんなど、原作元の出版社が自らお金を出してアニメ放映を整備させるという売り出し方が新しくできあがってきたわけです。それがあるからこそ、我々はコミック出版社として結構伸びることができたんだと思います。

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