『咲-Saki-』『鋼の錬金術師』の田口浩司プロデューサーが語る、儲かるアニメの作り方劇的3時間SHOW(2/6 ページ)

» 2009年10月09日 10時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ウケるアニメのジャンルとは

田口 「なぜ、簡単なの?」というと、商売の基本なのですが「魚のいない所でいくら釣り糸を垂らしても魚は釣れません」ということに尽きると思います。

 (ターゲットが多いジャンルで)スクウェア・エニックスが得意としているのが、「萌え」「腐女子(会場のスライドでは「ふ女子」と表記)」「シュールギャグ」「王道少年漫画」です。

 具体的に言うと、「萌え」のアニメは9月に終わったばかりの『咲-Saki-』です。今年の上半期は『けいおん!』という恐ろしい作品があったのですが、その次に当たったという感じです。

『咲-Saki-』公式Webサイト

 「萌えのアニメがたくさんある中で、なぜスクエニのアニメは当たるのですか?」と取材などでよく聞かれます。『咲-Saki-』は女子麻雀部を舞台にしているのですが、その前に女子剣道部を舞台にしたアニメ『バンブーブレード』も作ったんですね。両作品ともに、キャラクターを男くさく書くと、いわゆる“スポ根もの”になります。30代から40代の世代が昔から見てきたスポ根ものを今風の設定、つまり美少女キャラに置き換えただけの物語だから(当たる)と言っても過言ではないと思います。

 まず、部長が部を守っていて、それをサポートするメガネくんがいる。そこにすばしっこいのが出てきて、中学のチャンピオンだった1年生が入ってきて、最後に天才が入ってくる。どこかのバスケットマンガで聞いたことがあるような設定ですが、そこに美少女キャラを乗っけることによって、単純に美少女ものであるというだけではなく、作品が厚みが与えられ、キャラクターたちそれぞれのドラマも作りやすいというわけなのです。もうけないといけないので、ウケ狙いは当然やるのですが、そのバックボーンや世界観、キャラクターなどがしっかり生きていないと売れないという部分があると思います。『バンブーブレード』のヒットのころにそれに気付いて、その延長線上でやってきたのが『咲-Saki-』です。

 「腐女子」のアニメは2008年10月〜2009年3月まで放映していた『黒執事』です。これは本当に難しいジャンルです。来年、第2期をやろうと動いてはいるのですが、こちらに関しては本当に売れるかどうか分かりませんでした。

『黒執事』公式Webサイト

 原作漫画の1巻は最終的に100万部売れたのですが、営業が付けてきた初版数は5万部で、編集に非常に申し訳ないことをしたなと思います。刷っても刷ってもまた売れるという感じで、アニメをやったら売り伸ばさなければいけないのに、アニメの前にどんどん売れていくので、これ以上売れないんじゃないかと心配するぐらい売れたんですね。しかし、フリーコンテンツとしてお客さまにアニメを見ていただいたことで、さらにユーザーが増えました。

 黒執事のフィギュアなどを作っている部門の女の子に、「何で黒執事は当たって、●●は当たらないの?」と聞いた時に、「黒執事はエレガントなんです」と言われて、「これはもう無理だ」と思いました。「(自分には)分からん(世界だ)」と。そういう時は、こういったジャンルに強い編集に聞くのと、漫画の売り上げ部数といったマーケティングの数字を見てどのタイプを仕掛けるかを決めるしかないな、と思わざるを得ませんでした。

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