雇用に物価……まだまだ目が離せないニッポンの景気藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年10月05日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 中国の景気回復は言うに及ばず、先進国でも景気の底打ちはほぼ確認されているようだ。IMF(国際通貨基金)では、V字型回復もないがW字型もないとしている。要するに、弱気派が言うところの「二番底」はないというのだ。それでもまだ弱気派が完全に降参したわけではない。

 中国やインドといった世界経済の「牽引車」になろうかという国を含むG20でも、結局は日本の藤井財務大臣が言っていたように「出口戦略はまだ早い」というのが今のところコンセンサスだ。それではいつ出口戦略を語れるのか、それはまだ見通しがつかないというのが正直なところだろう。

雇用が拡大しなければ、景気回復はない

 何と言っても、雇用が弱い。日本では 8月の失業率が7月に比べてやや下がったというので安心感が漂い始めているようなところもあるが、実際には雇用調整助成金によって200万人の隠れ失業者がいるということもあり、これを勘案すれば実際の失業率はもっと高い。それにOECD(経済協力開発機構)は、日本の15歳から24歳の若者の失業率が1年前に比べて2.4ポイントも悪化し、9.9%に達しているとし、雇用対策が急務だと警告した。雇用が弱いのは米国や欧州も同じだ。雇用なき景気回復などとも言われるが、実際に雇用が拡大してこなければ、本格的な景気回復はありえない。

 日本の場合は、バブルが弾けた1990年代、企業も家計も多額の借金を抱え、バランスシートを立て直すのに苦労した。同じように、米国や欧州(とりわけ英国、スペイン)の住宅バブルが弾けた国では、過重な負債を抱えている。その意味ではまさに日本と同じように、その借金の返済に追われるなかで需要がすぐに回復するなどと言うことは考えにくいのである。

 これまで経済が1929年のような大恐慌に陥らずにすんでいるのは、世界各国が協調して例を見ないような財政出動、低金利政策を取ってきたからだ。ここに2つの問題がある。

 1つは、これだけの財政出動をして世界各国の政府が借金を増やしてしまったこと。当然のことながらこの財政状況を打開するには景気拡大による税の増収だけでは足りず、どこかで増税ということになるだろう。そのタイミングを間違うと1997年の橋本内閣のように、景気の腰を折ってしまう。この橋本政権の失敗は世界でも有名だ。

 さらにこれだけカネを注ぎ込み、なおかつ中央銀行が国債などを買い取っていることを考え合わせると、インフレに対する懸念がないというわけにいかない。21世紀に入ってからインフレにならずにすんだ(そのおかげでバブルになった)のは、中国という「物価の重し」になっている国があったからだ。すなわち安い中国製品が市場にあふれたため物価が抑えられたのだという。

 しかしその中国は世界第3位(ひょっとすると日本を抜いてもう第2位になっているかもしれない)の経済大国となって、安い世界の工場ではなくなりつつある。もちろん膨大な外貨準備を背景に通貨元が切り上がってくれば、ますます物価押し下げ効果がなくなる。当然、インフレが懸念されるわけだ。

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