水素で走る究極のエコカー、ホンダ「FCXクラリティ」に乗ってみた(前編)神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2009年09月30日 14時33分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 ハイブリッドカーの「プリウス」(トヨタ自動車)や「インサイト」(本田技研工業)、EV(電気自動車)の「iMiEV」(三菱自動車)を筆頭に、2009年の自動車業界のキーワードは“エコカー”だ。多種多様なクルマがエコ指向に走り、SUVやツーリングワゴン、そして高級車までもが、ハイブリッドや既存エンジンの改良・ダウンサイジングなどで燃費向上に努めている。

 そのような中で、未来のエコカーとみられているのが、水素をエネルギーとして使う燃料電池車(FCV)だ。水素と酸素を化学反応させて電気を取り出すFCVは、ガソリンエンジンなどの内燃機関よりエネルギー効率が良く、CO2や燃焼ガスなど汚染物質を発生させない。またEVと比べても、「航続距離が長い」「送電時のエネルギー損失が発生せずトータルの効率性が高い」といったメリットがある。

 筆者はこのFCVの1つであり、世界的に見てもっとも先進的な“未来のクルマ”の1台であるホンダの「FCXクラリティ」に5時間ほど乗車できるという幸運に恵まれた。そこで今回の時事日想では特別編として、FCXクラリティの試乗レポートをお届けしたい。

ホンダの「FCXクラリティ」

FCVは“化学発電所入り”の電気自動車

 究極のエコカーであるFCV。試乗レポートに入る前に、まずはその仕組みを簡単に紹介しよう。

 前述の通り、燃料電池では水素と酸素を化学反応させて電気を発生させる。その際に発生するのは水だけであり、CO2などの排出ガスはゼロ。さらに発電時に、ピストンやタービンを動かす必要がないため、エネルギー効率が非常にいいというメリットを持つ。

 この燃料電池はFCVの世界では“スタック”と呼ばれており、FCXクラリティではホンダが独自開発した「V Flow FCスタック」という最新のものを搭載している。V Flow FCスタックは100キロワットの高出力化と、クルマのセンタートンネル内に収まる軽量・コンパクト化を実現したのが特徴。この小型化により、デザイン設計の自由度の高さや、居住スペースやトランクスペースの拡大、運動性能の向上などを実現した。

FCXクラリティのトランク。丸くふくらんでいる部分に、水素タンクが入っている

 そして、FCXクラリティのもう1つの特徴が、駆動用のモーターとバッテリーの存在だ。

 燃料電池で生み出された電力は、駆動モーターを動かすだけではなく、余剰分はリチウムイオンバッテリーにも蓄えられる。また、クルマの減速時には回生ブレーキ※によって、運動エネルギーを電力に変換してバッテリーに蓄える。こうして蓄積した電力は、クルマの加速時など、より大電力を必要とするシーンにおいて、燃料電池で発電される電力と合わせてモーター駆動に使われるのだ。

※回生ブレーキ……通常は駆動用に利用しているモーターを発電機として作動させて、その回転抵抗を用いて制動をかけて、同時に電力を得るシステムのこと。制動時の運動エネルギーから電気エネルギーを作ることから、電力回生ブレーキと呼ばれている。ハイブリッドカーやEVでは回生ブレーキを用いることで、従来の摩擦ブレーキでは熱として捨てられていた運動エネルギーを、電気エネルギーとして回収。バッテリーに蓄えることで、エネルギー効率の向上を実現している。

 読者の皆さんもお気づきかもしれないが、FCXクラリティの仕組みは、燃料電池の存在以外は、電気自動車(EV)とまったく同じである。いわば、「燃料電池という化学発電所を取り込んだ電気自動車」なのだ。実際、ホンダでは今年からFCXクラリティを、従来のFCV(燃料電池車)ではなく、FCEV(燃料電池電気自動車)と呼ぶという。また類似のシステムを搭載するトヨタ自動車の燃料電池車も、FCHV(燃料電池ハイブリッド車)と呼ばれている。

 FCXクラリティは、この燃料電池とEVのハイブリッドにより、最高時速160キロ、航続距離620キロ(カタログ値/実用域で約600キロ)を実現している。iMiEVなどバッテリーのみで稼働するEVの航続距離は約160キロ。一般的なガソリンエンジン搭載車の航続距離が500キロ前後であることを考えると、FCXクラリティの航続距離が十分実用的なレベルに達していることが分かるだろう。なお、水素タンクの容量は171リットルで、約350気圧まで加圧されて搭載されている。

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