30歳からの社会復帰――若年失業者をどう救うかちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)

» 2009年09月28日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]
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必要なのは“公共事業”

 現実を見ると、どの会社でも簡単な事務職の求人に相当数の応募があり、その中には30代でもまともな職業経験のない人が多数含まれています。彼らに対して「甘えている」「親に依存している」と批判する意見もあるし、実際そう言われても仕方がない人もいますが、一方で、いったん定職の無いままに30代になってしまうと、他者の100倍くらい努力しても社会は受け入れようとしないというのも現実でしょう。

 30歳になるまで定職に就かなかったことについて、たとえ本人に多少の非があったとしても、たかだか20代の時にちょっとした甘えがあったという理由で、30歳という働き盛りの年齢の人から一切のチャンスを奪ってしまうのはいかがなものか、と思います。人しか資源がない国としては単純に“もったいない”し、本人たちの人生は社会をうらんで無為に生きるにはまだあまりにも長く残っている。

 でも、企業に勤めている人なら分かるでしょう。30歳で定職経験のない人を雇う企業は多くはありません。

 例えばマンションの管理人の仕事、60歳まで働いて定年を迎えた人向けの再就職先ポジションとして定着しています。ここに“30代で定職経験のない人”が「同じ給料でいいです」と言って応募してきても、恐らく再就職派には勝てないでしょう。

 世の中は(日本は)、“長い間我慢してきた人”というのをとても高く評価するからです。

 しかし、たかだか数年間その我慢をせず、悩んだり迷ったりしてきた人、というのは、一生罰を受けなくてはならないほどの罪を犯したと言えるでしょうか? なのに、あまりにチャンスが与えられなくなってしまうのは、ちょっとかわいそうすぎる、と思います。

 ではどうすればいいのか? これこそ“公共事業”が必要だと思います。上にも書きましたが、民間企業が救うことはできません。ならば、市場のルールでは生きていけない層をバックアップすることは公的部門のお仕事のはずです。

 今までは中高年の失業対策に大量の“箱もの工事”をやってきたわけですが、これからは若者を大量に雇い、「その仕事を数年やったら、若者が民間社会に復帰する力を付けられる」ような機会を大量に提供してほしい。

 中国の刑務所では受刑者がPCのタイピングを教えられ、釈放時には一定以上のスピードでできるようになっていると聞いたことがあります。確かに「データ入力業務」の職業ニーズが高い社会であれば、そういうのはとても効果的ですよね。

 ちきりんが一番疑問に思ったのは、若年者雇用対策として“履歴書書き方指導”や“面接指導”が行われるというニュースです。企業は、履歴書の書き方や面接がうまい人を雇いたいと思っているわけではありません。実務の経験や具体的な実績がある人を求めています。

 それならばどんな“公共事業”をすればいいのでしょうか? 例えば公共団体や図書館などのWebサイト作成を“定職経験のない人”にやらせてみてはどうでしょう。広報が中心のWebサイトなんて少々できが悪くても問題ありません。Webサイト作成のスキルがある人(マネージャー)1人と、定職経験のない人を5人ほど雇って、マネージャーが具体的な指示を出して教えながら、作業はすべてそういう人にやらせる。そうすれば彼らは履歴書に「●●団体のWebサイトを作成」と書くことができるようになります。

 年金の取り立て業務や、公共調査であちこち電話する仕事や、市民からの問い合わせを受ける電話作業にもそういう人を雇って、教えながら経験を積んでもらう。そうすれば「集金業務」「テレマーケティング」「コールセンター」の会社に履歴書を出す時にアピールできる経験が手に入ります。彼らに必要なのは、面接の練習やカウンセリングではなく“数年の定職経験”だし、世の中で需要の高い(日本人しかできない)仕事の具体的なスキルです。

 不況期には“訓練が必要な人”“経験のない人”の採用は民間企業にとって、とても負担が大きい。でもそういう時にこそ、公的部門の出番があります。お役人さんに頑張ってほしいものです。

 そんじゃーね。

著者プロフィール:ちきりん

関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。

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