年収7万円の男が、プロの編曲家になるまで――制作プロデューサー・高野康弘さんあなたの隣のプロフェッショナル(4/4 ページ)

» 2009年09月25日 10時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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「ロズかま」として、そして今後は

 前回の村田さんの記事でご紹介したように、2008年、次のステップとして、バンド「ロズかま」を結成した高野さん。「行列のできる小さな店」を目指しての戦略構築は着々と進行しているようだ。

 「『ロズかま』の楽曲のイメージは、『思い出こそが宝物』というキーワードで表現されます。オリジナルもあればカバーもあります。カバーですと、CHAGE and ASKAもあれば中島みゆき、そしてJUJUもある、という感じで。日本の歌を日本語で歌うというのを基本にして、ライブ1回分で20曲用意します」

 お客さんのターゲット層はどの辺に置いているのだろうか?

 「30代から50代の女性が中心です。この方々は、あくまでも、“女の子”として来てくださるんですよ。青春時代の甘酸っぱい思い出とオーバーラップさせているんです。でも、そうは言っても現代を生きている方々でもあるので、音楽的には、アレンジのセンスは時代の先端をいくものにしています。ですから出てくるものは、50代でも心地よく聴けるテクノというべきものなんです」

 バンドのメンバーは、みんなそれぞれの分野で本業を持ち、かなり多忙だと思うが、練習に充てる時間はあるのだろうか?

 「基本は個人練習にしています。でも、月に1回は全員で集まって練習していますよ」

 昨年のライブは大成功だったようだが。

 「そうなんですよ。お陰様でライブチケットは発売初日に完売しました。プロモーションは一切行わず、クチコミだけです。CDも一般発売はせず、会場の人数分しか制作しないんです。そうすることで渇望感を作っていくんです。

 とにかくライブ会場に足を運んでくださるお客様であれ、メンバー各自が展開しているブログを読んでコメントをくださるお客様であれ、今いるお客様1人1人を大事にしようというのが基本ポリシーです。これを称して、『釣った魚にしか餌はやらない』と言います」と最後はおどけて大爆笑だ。

ロズかまのライブ。ピアノを演奏する高野さん(左)、ギターを弾く村田努さん(右)

 高野さんはインタビューの終わりにこんなことをポツリと言った。

 「最近の日本を見ると、本当に、拝金主義がはびこっています。今以上に出世して、さらに金儲けしようとアクセクして、結果的に不幸になっている人があまりにも多いですよね。年齢が上がるにつれて、組織のピラミッドの上(=管理側)にばかり上がっていこうとしています。私たちは、そういう人生のあり方に対するアンチテーゼとして今の活動を続けているんですよ。

 40代になっても、あえて“現場”に立つことで、お客様と直接触れる場を作り出し、それをずっと大切にしていきたい。お客様に感動していただきつつ、そこに自分たちの喜びを創出していきたいと思っています。中長期のビジョンとか戦略とかはありません。いろんな小さな試みをして、お客様の反応を見て、次の展開を考えていく、という感じですね」。

 前回の村田さん、そして、今回の高野さんと、多くの笑いに満ちた楽しいインタビューであったが、高野さんの最後のこの発言にこそ、彼らの真の深い想いが込められているように感じられた。

 彼らのメッセージが世の中に伝わり、それを通じて、それまでの不幸な人生から立ち直り、輝きを取り戻す人がたくさん現れることを祈るばかりである。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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