どんな記者が引き抜かれていくのか? メディア界の2007年問題相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年09月17日 10時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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優勝劣敗の構図、鮮明に

 団塊世代の大量離職という現実は、現在もメディア界で尾を引いている。先に触れたように、新人教育には手間がかかる一方、団塊世代の離職は続いている。新人が育つよりも早く、多くのベテランが抜けるという状況が長期化しているのだ。このため、即戦力となる記者を引き抜くという行為は、「一番手っ取り早い」(大手紙ベテラン記者)として今もその動きが続いているわけだ。

 では、具体的にどのような記者が引き抜かれているのか。簡単に言えば、取材スキルが身に付き、かつ激務に耐えうる体力、そして集中力が一番ある30歳代前半から後半にかけての中堅記者組だ。

 大手紙の人材広告、あるいは先に移籍した人材の“ヒキ”により、こうした中堅組が引き抜かれるケースが多発している。終身雇用という言葉が死語となった現在、なにを今更と思われる読者もいるはずだ。だが一連の動きは、メディア界の根本を揺るがす構造問題を一気に表面化させる要素を含んでいるのだ。

 当コラムでも触れたが、未曾有の広告不況により大手メディアの体力低下が著しいのは周知の通りだ(関連記事)。人材を引き抜く体力が残っているメディアは、経営規模が大きく、比較的まだ余力があるところ。一方、引き抜かれる側は、この逆なのだ。引き抜きという行為のほかに、自社の先行きを不安視する中堅組の一部が積極的に移籍するという側面があることも否めない。

 人材流出に歯止めがかからない企業の内実は、「新人と定年間近の記者のみが存在するいびつな取材態勢」(在京紙)ということになる。脂の乗った中堅組の数が激減することは、読者に届けられる情報の質低下、そして読者離れに直結する。実際問題として「定期購読や提供されるサービスを打ち切った」(大手銀行企画担当者)との声は少なくないのだ。

 また、抜けてしまった中堅組の領域までカバーさせられる新人記者の負担は増大し、新たな転職予備軍を作っている側面さえある。

 メディアの財産は人、すなわち記者の質だ。2007年問題を端緒にしたメディア界の人材流動化は、「体力のあるメディアのみが残り、弱った企業の体力を著しく低下させる『優勝劣敗』の構図を鮮明にさせている」(同)とも言えるのではないだろうか。広告不況の長期化が予想され、メディアの新たな収入源が見つからない以上、人材流動化という動きは継続するのが必至だ。ひいては、これが業界の再編の起爆剤になると筆者は予想している。

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