かざせばつながる……デジタル機器を使いやすくする、ソニーの「CROSS YOU」とは神尾寿の時事日想(2/4 ページ)

» 2009年09月16日 11時56分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 このFEELこそ、CROSS YOUの雛形である。「ソニーは約10年前から今後のデジタルライフスタイルで重要なのはネットワークだと考え、ワイヤレスでつながることを重視しました。それが『FEEL』の開発コンセプトです。しかし、FEELはその後の(ソニー内部の)ネットワーク戦略の変遷や紆余曲折もあって、開発が一時的に停滞してしまいました。結果として、(当時は)FEELの製品化という段階には至りませんでした」(小林氏)

 FEELが製品化されなかった背景には、より現実的なハードルもあった。FEELのコンセプトで肝心な“すばやく、確実な認証技術”が熟成していなかったのだ。当時、交通ICカード用のFeliCaチップは存在したが、デジタル機器への実装はまだ始まっておらず、技術もノウハウも不足していた。

 「しかし、FEELのコンセプト自体の方向性は正しかった。さらにソニー内部ではFeliCaの技術が進化し、ノウハウも蓄積したこともあって、今の技術でFEELを実現できないか、とプロジェクトチームが発足しました」(小林氏)

 このプロジェクトチームには初期のFEEL開発メンバーだけでなく、FeliCaの開発チームも参加。プロジェクト自体もFeliCa部門に合流することで、ワイヤレス接続のための支援プラットフォーム「CROSS YOU」として開発されたのだ。

あらゆるデジタル機器の接続を簡単にするミドルウェア

 それでは具体的に「CROSS YOU」の仕組みを見てみよう。

 CROSS YOUのコア技術は「Handover Toolkit」と呼ばれる組み込みソフトウェアの部分にある。これは非接触ICである「FeliCa」の認証をトリガーにして、様々なワイヤレス通信の接続初期設定情報を相互にやりとりし、ワイヤレス接続を自動化するというものだ。Handover Toolkitは自動化したいワイヤレス通信ごとに用意される仕組みで、現時点ではBluetoothの接続を自動化する「Handover Toolkit for Bluetooth」が実現している。今後は、FeliCaを認証の鍵にするところは同じで、Wi-FiなどBluetooth以外のワイヤレス通信にも対応していくという。

CROSS YOUの概念図
CROSS YOUの利用例

 CROSS YOUとは、これら一連のHandover Toolkitの総称であり、アプリと各ワイヤレス通信デバイスの間に入り、自動接続を行うプラットフォームになる。

 「CROSS YOU自体はミドルウェア的な位置づけになるため、携帯電話をはじめデジタル機器において、メーカーが開発段階で実装する必要があります。現在はNTTドコモに採用していただいており、そこではおサイフケータイ(モバイルFeliCa)によるタッチを用いてBluetoothの認証を自動化し、iアプリ同士の通信を自動化するという使い方をしています。

ソニーが提供するiアプリタッチ向けアプリ「いっしょにデコ」

 CROSS YOU自体はCE(コンシューマーエレクトロニクス)機器全般に展開していくものですが、まず最初におサイフケータイから実装したのは、iアプリタッチという形を取ることでアプリケーションとして(CROSS YOUの)メリットが見せやすかったからです。ソニーとしても、写真の共有・加工アプリの『いっしょにデコ』というサービスを提供しています」(石川氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.