コラム
» 2009年09月10日 08時00分 UPDATE

相場英雄の時事日想:“リーク依存症記者”が増殖中……その功罪とは (1/2)

「リーク」という言葉を聞いたことがあるだろうか。リークには「秘密の漏えい」などの意味があるが、メディアで流される情報の何割かはこのリークで構成されている。企業や政治家などから情報が意図的に記者にもたらされているが、その弊害も忘れてはいけない。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

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1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載


 「関係筋によると、大手の○○企業が画期的な新商品を開発し、半年以内に市場に投入することが明らかになった」――。

 日々接する新聞やテレビ報道の中で、読者の多くがこんなスタイルで書かれた記事を目にしたことがあるはずだ。この記事が書かれる過程ではどのような取材があったのだろうか。関係者の間をつぶさに回り、夜討ち朝駆けと呼ばれるドブ板取材を繰り返した結果だと思われる向きも少なくないはずだ。だが残念ながら、こうした緻密(ちみつ)な取材に基づく記事はごくわずかだと言わざるを得ない。

 ではなぜこのような記事が出てくるのか。その答えは「リーク」という言葉に凝縮されているのだ。

リークのメリット

 「リーク(leak):(秘密などの)漏洩、機密漏洩者、漏洩の経路」(出典:リーダーズ英和辞典/研究社)――。

 リークという言葉にはこんな意味がある。新聞やテレビで流される情報の何割かは確実にリークで構成されている。政治家、検察、警察などその出所は多種多様だが、本コラムで取り上げるのは、筆者が直接目にした経済/産業分野での話。企業の広報担当者、あるいは経営陣から情報が意図的に記者にもたらされるケースだ。

 なぜ企業が情報をリークするのか。もちろん、メリットがあるからに他ならない。ではどんなメリットがあるのか。企業が新製品を世に出したり、あるいは新事業を展開する際には宣伝広告費がかかる。だが、記者がストレートニュースで扱ってくれる分にはコストはゼロ、タダなのだ。しかも広告よりも目を引くスペース、例えば一面、もしくは経済面で大きく取り扱ってくれるからだ。

 記者の立場からはどうか。常に同業他社を出し抜き、目新しい素材を読者、あるいは視聴者に提供するのが記者の本分だ。大企業の新商品や新戦略はまたとない素材であることは間違いない。ここで企業と記者の利害が一致すれば、リークされた情報は晴れて紙誌面、あるいは映像となって一般読者や視聴者のもとに届けられる。

 企業にとっては、さらにおいしい側面がある。例えば在京大手紙X社のみに情報を提供した場合、横並びを強く意識する他の大手メディアが一斉に後追い取材してくれるからだ。宣伝効果は当初の目論みよりも数倍膨らむことになる。

 ある中央官庁では、新施策を打ち出す前段階として、あえて最大手メディアを使わず、部数が若干少ない中堅在京紙に情報を漏らし、その上で世間や政治家の反応を測るという高等手段を用いていた。また特定の社にリーク情報が偏らないように配慮し、「このネタはあの社、この情報はあの局に」(某大手銀行)などとリークのローテーションを組む強者さえ存在する。

リークが生み出す依存症記者

 現役の記者時代、筆者もリーク情報の恩恵にあずかったクチだ。リークを否定するつもりはないし、批判する資格もない。先に本コラム『実録 メディアへの接待! 墜ちる記者の“分かれ目”とは』でも触れたが、経済面を埋める仕事をしている以上、リーク情報がなければ紙面を構成することなどできないからだ。

 だが、それも程度の問題だ。リーク情報を得ることが仕事だと思う記者が増えているのだ。こうした向きは昔から存在した。リークで他社をリードすることができれば記者としての評価が上がるからだ。ただ、情報を得るためだけに、取材対象者である広報マン、あるいは役人に対し、過度にすり寄る“おべっか記者”も少なくなかった。現役の後輩連に話を聞くと、リーク依存症の記者は確実に増加中だとか。

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