不景気だから研修をするより雑談をして下さい

» 2009年09月09日 08時00分 公開
[荒川大,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:荒川大(あらかわ・ひろし)

株式会社ENNA代表取締役。「人的リスクマネジメント」をキーワードとして、内部統制対応の人事コンサルティング、IT統制対応の人材派遣、メンタルヘルスのカウンセリングを提供している。


 「コーチング」「モチベーション向上」「チームビルディング」……。特にインターネット広告などで踊っている言葉ですが、メンタルヘルスのカウンセリングから導き出される「組織運営を改善する取り組み」としては、どれも不足している部分が多いです。

 それはなぜか?

 「コーチング」を指導するトレーニングプログラムや書籍を見ると、その運営プロセスにばかり目がいくことが多く、本来ビジネスで重要な「ゴール設定」と、コーチングをする側の「成功体験を排除する」という2つの大きな取り組みの重要性が欠けているケースが多いのです。

 また、「メンタルコーチング」と「スキルコーチング」に分けて考えても、組織ゴールを共有し、モチベーションを高めて、効率的な仕事のやり方とコーチングを受ける個人の力量を高めるという微妙に異なった「仕事の仕方」を指導しなければならないため、コーチングで他人に手をかけるよりも、コーチングできる人材にそのまま本業で働いてもらう方が業績が上がるという状況が生まれることも少なくありません。

 さて、そこで「“研修”よりも“雑談”を」とする理由ですが、考えるべきポイントがいくつかあります。

1.コーチングにはモチベーション向上が必要

 モチベーションは個人の気分(の連鎖)です。波があります。そして本人以外、そのモチベーションが高まるポイントが分かりません。

 でも、気分の連鎖なわけですから、組織と個人、またはコーチングする側と受ける側の信頼関係の向上によって、その波が抑えられるわけです(その逆もあります。そしてこの逆の形が「新型うつ病」を誘発します)。その信頼関係を構築できているのでしょうか?

2.ゴール設定は明確か?

 目標管理制度を導入している企業は多いのですが、成果主義の崩壊という流れで、会社としての、組織としての、チームとしての、個人としてのゴール設定までも揺らいでいるようではいけません。

 「稼ぐぞ!」でもいいわけです。チームのリーダー、組織の責任者、経営者が、今、今期、今年、何をしたいのかが組織全体に伝わっていなければ、そもそもコーチングは成り立ちません。もちろん、「稼ぐぞ!」と掛け声をかける方には、「じゃあ、どうする?」という言葉がセットでなければなりません。

3.コーチングのコーチを誰にするか?

 成果主義や目標管理制度のコンサルティングをしていた時は、「好業績者をコーチにする」といった安易な考え方を持っていました。しかし、この考え方は会社業績が上向いている時はいいのですが、会社業績が市況の影響で下向いた場合にはかなりもろい組織運営であることを知らされる機会も多かったです。

 それは、モチベーションが気分の連鎖だからであり、好業績者が数値でしか他者から評価されていないからであり、いくらビジネスとは言え売り上げの大小で信頼関係までが変わるということは、無意味というよりネガティブな爆弾を抱えた人間関係ということになってしまうからです。

4.コーチングはモチベーションが大切だから

 モチベーションは「気分」の連鎖ですから、こんなのはダメです。「くどい」「臭い」「なれなれしい」「見つめすぎる」「恐い」「自分の話しかしない」「時間を気にしない」「周りで聞いている人の反応を気にしない」「特定の相手ばかりと話す」「感情的になる」「自分の嗜好を無理にすすめる」。

5.普通の人間が信頼できるのは「共感」できる普通の人

 結論。

 雑談で相手のことを知って下さい。「なぜ、自分が勤めている会社にその人がいるのか」、知り合ったらすぐに聞いてみて下さい。

 雑談で相手に自分のことを話してください。出身や家族、お子様や好きな食べ物など……。

 雑談で相手との距離感を測って下さい。相手の笑顔が消えた「瞬間」があったら、相手が腕を組み始めたら、雑談は終了です。仕事に戻ります。

 雑談で雑談が好きな人と好きではない人を確認して下さい。話しかけた時、呼び止めた時、目が合った時、その表情の変化に気づいて下さい。

 このプロセスの中で信頼関係が徐々に生まれ、組織運営が円滑になります。また、会社で評価されていないと感じている方は、これを使うと状況が改善します。

 コーチングという技を使うよりも、コーチングという技の背景を理解することで、もっと楽に、自分らしく、人に接することができるようになります。でも、そんな技や心理学を知る時間があるのなら、雑談です。(荒川大)

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