「働くということは、自分にとってどういう意味があるのだろうか?」――。こういったことを考え・悩んでいるビジネスパーソンも多いに違いない。自分の周りを見てみると、夢を実現した者、社会的地位を手にした者、金銭的に豊かな者……いわゆる“成功”を収めた人たちがいるはずだ。しかし、である。ここは周囲の人たちの結果には“流されず”、自分の選択する道を大切にしていきたい。
仕事のことで悩むのは結構だが、悩み続けていては誤った方向に進むかもしれない。そこで経営の第一線で活躍する企業のトップに相談してみるのはいかがだろうか。Business Media 誠では読者からの相談を受け付け、その悩みなどを企業のトップに聞いていく。まずは総合金融グループを手掛けるSBIホールディングスの北尾吉孝CEOに話を聞いた。
35歳になり、同級生や同期が次々に出世しています。これまで与えられた仕事しかしてこなかった責任があるのですが、自分はまだ平社員です。このまま同じように仕事をして、気楽な毎日を送るのもいいかもしれません。その一方で「焦り」も感じています。
書店では「出世する方法」や「仕事術」といった本が並んでいて、私も読んでみました。しかし、いまひとつピンときません。30代半ばの人間が、やり直すにはどんなことを始めればいいのでしょうか?
論語の中にこういう言葉があります。「死生命あり、富貴天にあり」――。
死生命ありとは、生きるか死ぬかというのは天命によるもので、人の力ではどうすることもできないということ。また富貴天にありとは、金持ちになるとか偉くなるとかというのも、天命によるもので自分の力ではどうにもならないという意味です。
このように世俗的な成功というものは天の配剤(はいざい)なのですから、あまり考えすぎないことが大切ではないでしょうか。能力があるからといって必ずしも成功するとは限りません。逆に能力がなくても、成功を収めるという人もいます。
世俗的な成功というものをいちいち気にすると、限りがないものです。また気にばかりすると、心の安寧を得ることができなくなるでしょう。
私が野村證券で働いていたとき、よくこんなことを聞かれました。同期から「ボーナスが出たけど、北尾、いくらもらったんだ?」と。しかし私はこういったことに全く関心がありませんでした。余計なことに関心を持たないで、与えられた仕事を一生懸命に行う。これが一番大事なことだと思うのです。働くということに安易な方法はありません。なぜなら、仕事というものは誠実にコツコツと積み上げていかなければならないものだからです。
また「積小為大(せきしょういだい)」という言葉があります。小を積み上げて大をなす――という意味です。日々の小さな努力の積み重ねが、いざというときに大きな力となっていくのです。この言葉の通り、Aさんもまずは与えられた仕事をコツコツときちんとこなしていってください。そして仕事をしていく上で、「もっとこうすればいい結果が生まれるのではないか」と常に考えてください。そうすればいずれ、大きな仕事を成し遂げる日がやって来ることでしょう。
書店にはハウツーもの関係の本がたくさん並んでいます。しかし役に立たないモノが多いことも確かです。そういった類の本に頼るのではなく、むしろ精神の糧になる本を読んでみてはいかがでしょうか。例えば自分が悩んでいるときに論語でも読めば、きっとその状況に合った心に染み入るような言葉が見つかるだろうと思います。
1951年生まれ。1974年、慶應義塾大学を卒業後、野村證券に入社する。1978年、英国ケンブリッジ大学卒業。その後、野村證券で海外投資顧問室、ニューヨーク拠点などを経て数々の役職を務め、1995年にソフトバンクの常務取締役に就任する。1999年、ソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)の代表取締役CEOとなり、現在に至る。一方で、財団法人SBI子ども希望財団の理事、SBI大学院大学の学長なども務める。著書に『何のために働くのか』『君子を目指せ小人になるな』(致知出版社)など多数ある。
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