実は同じ企業価値の評価法!? 市場価値アプローチと本質価値アプローチ財務で読む気になる数字(1/2 ページ)

» 2009年09月04日 08時00分 公開
[斎藤忠久,GLOBIS.JP]

斎藤忠久の「財務で読む気になる数字」とは?

グロービス・マネジメント・スクールそしてグロービス経営大学院で教鞭を執る、斎藤忠久氏による連載。ファイナンスの観点から話題になったニュースを独自の視点で読み解くコラム。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年8月27日に掲載されたものです。斎藤氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 企業や株式の価値の代表的な評価方法として「市場価値(マーケット)アプローチ」と、「本質価値(インカム)アプローチ」とがある。

 市場価値アプローチとは、株式市場で形成された株価をもとに各種の株価指標を作成し、これによって適正株価水準を推定しようというものであり、その代表例としてPER(株価収益率)やPBR(純資産倍率)、EBITDA倍率などがある。

 一方、本質価値アプローチは、企業が将来生み出すキャッシュフロー(フリーキャッシュフロー=FCF)をそのキャッシュフローのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に引き直すことで企業の価値を測定しようという方法であり、DCF(割引キャッシュフロー)法や収益還元法がその代表例である。

 市場価値アプローチは、「市場のことは市場に聞け」という株式市場の動向をもとにした市場重視型アプローチであり、市場が効率的に機能していると判断するのであれば、市場で形成された株価も適正ということになる。

 他方、本質価値アプローチ法は、企業の事業構造や収益モデルを分析し、そこから将来生み出されるであろうキャッシュフローをもとに企業の本源的価値を探ろうという理論重視型のアプローチである。

 この2つのアプローチは市場の実勢と理論的整合性という対極にある考え方に基づくように理解されているが、実は同じようなロジックに基づいて構成されている。

PERの式を展開していくと……

 PER法は、市場におけるある企業の株価が、当該企業の1株あたりの当期純利益の何倍となっているかを計算し、この倍数を同業他社のPERと比較することによって、当該株式が割高か、割安かを判定しようとするものである。

 一方、DCF法では、企業が生み出すキャッシュフローをそのキャッシュフローのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に引き直し(これが企業価値)、ここから有利子負債金額を控除した残額が株式の理論的な時価総額であると考える。この理論時価総額を発行済み株式総数で割ったものが理論株価であり、市場での株式時価と比較することによって、現在市場で取引されている株価が割高か、割安かを判断しようとするものである。

 PERは株価収益率と呼ばれ、具体的には以下の算式によって算出される。

PER=株価/1株当たり当期純利益

 このPERの計算式を展開していくと、「PER=株価/1株当たり当期純利益=株式時価総額/当期純利益」となる。企業の当期純利益が一定の成長率で増加していき、その当期純利益は毎年全額配当金として株主に分配されるとの前提(株価配当割引モデル)に立つと、株式時価総額=当期純利益/(rE−g)(rEは株主の期待利回り、gは当期純利益の成長率)となる。これをPERの式に代入すると、PER=株式時価総額/当期純利益=当期純利益/(rE−g) × 1/当期純利益=1/(rE−g)となる。

 この最後の式は、PERとは「(株主の期待利回り)−(当期純利益の成長率)」の逆数であることを意味している。つまり、PERはファイナンスの基礎理論である収益還元法そのものとなる。

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