「勝ちすぎた」民主党、3つの課題藤田正美の時事日想

» 2009年08月31日 09時35分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 民主党が政権政党になる。それも地滑り的勝利である。ちょうど4年前の「郵政総選挙」をそのまま裏返したようだ(あのとき民主党は177議席から30%を上回る議席を減らして113議席しか獲得できなかった)。

 もっとも自民党は現有300議席から60%以上を失うわけだから、ショックはさらに大きいはずだ。選挙区で幹事長経験者や閣僚経験者、現職閣僚、あまつさえ総理経験者までもがバタバタと落ちる様は、まさに今が、これまでとは違う転換期であることを示していると思う。とりわけショックなのは公明党だろう。太田昭宏代表に北側一雄幹事長、冬柴鉄三元国土交通相が重複立候補していなかったために議席を失っている。

「勝ちすぎた」民主党の課題

 問題は、民主党が「勝ちすぎた」ことかもしれない。今回の総選挙はいわば「消去法選挙」。自民党を拒否した票が民主党に流れただけで(参照記事)、積極的に民主党を選んだわけではない。マニフェスト選挙はそれなりに定着してきたとはいえ、それで自民党と民主党の政策を慎重に検討した結果の選挙でもない。小泉改革を熱狂的に支持した国民は、安倍内閣、福田内閣、そして麻生内閣と、「改革継続」なのか「改革続行」なのかよく分からなかった。それなのに、「ぶっ壊れた」はずの自民党がどんどん元の黙阿弥(もくあみ)になっていくのに業を煮やしたのが今回の結果であると言い換えてもいい。

 その意味では、民主党が主張する「国民の生活が第一」「脱官僚依存」「政治主導」ということが、政策としてどのように実現されるのか、そしてその財源はどこから生み出されるのか、それが民主党政権にとって最も重要なテストになるだろう。その第一弾が、鳩山政権が成立してから行われる来年度予算だ。国債発行を増やさないとか、財源は無駄の見直しで賄うという主張がどれだけ根拠のあるものかを国民に示す最初のチャンスである。ここで基本的な方向とその具体的な根拠をある程度有権者に示すことができれば、来年夏の参議院選挙でも民主党が勝つ可能性が生まれてくる。逆に、野党となった自民党にこの予算編成の姿勢で厳しい追及を受けるようなことになれば、来年の参院選で勝つことがおぼつかなくなり、状況次第では再び衆参ねじれになる可能性もある。

外交・安全保障問題が課題になるか

 その意味で最も心配なのは外交や安全保障の問題だ。もはや世界はイデオロギー対立の時代ではなくなっている。世界的な諸問題に現実的に対応しなければならないときに、インド洋での給油問題、ソマリア沖の海賊対策、非核三原則などで「原理主義」的な対決姿勢を持つ政党が連立政権にいることのマイナスが露呈するかもしれない。社民党あたりが、存在感を示そうとして、何が何でも自衛隊の海外派遣に反対というようにこだわる可能性があるからだ。こうなると日本の憲政史上初めての本格的な政権交代のメリットが試される暇もないまま、機能不全に陥ってしまう懸念もある。

 それに加えて懸念されるのは、数に対するおごりだ。少なくとも鳩山代表の記者会見を聞くかぎり、そのあたりを懸念させるようなものはないが、300議席を超えるような議席をえれば、「いざとなれば押し切ってしまえ」という勢力が生まれるのはある意味自然なことだ。自公連立政権にさんざん悔しい思いをさせられてくれば、そのリベンジをと考える民主党議員もいるだろう。

日本が直面している問題から逃げてはならない

 政権交代が実現したとしても、今の日本を正しい進路に導くのは容易ではない。成長戦略として内需を増やそうにも、人口が減り、高齢化が進むような社会では、最初からマイナスを背負っているようなものであるからだ(参照記事)。そして残念なことにそのことについての危機感は、政治家にも官僚にも欠けている。もちろん一般国民にも欠けている。

 おそらく民主党の最も重要な役割は、現実に目の前にある諸問題から目をそらすことなく、それを国民に向かって説明し、解決策を議論することではないだろうか。課題があるのにそれをあたかも大した問題ではない、あるいは日本発の問題ではないとして何とか隠そうとしてきた、安倍、福田、麻生内閣は1年ももたなかった。もしも鳩山内閣が同じ轍を踏んだら、日本の政治はもはや救いようがないと言うべきかもしれない。

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