時代を作った“電気”カメラ YASHICA Electro 35 GT(S)-コデラ的-Slow-Life-

» 2009年08月24日 11時15分 公開
[小寺信良,Business Media 誠]

 以前、YASHICA Harf17を修理したことがある。あいにく露出計は直らなかったが、その写りの良さにびっくりした。そこで、もうそろそろYASHICA Electro 35に挑戦してみようかな、という気になった。

 Electro 35はジャンクカメラのレストアラーにとっては、特別なカメラである。とにかく難易度が高いのだ。簡単な修理で終わればラッキーだが、本格的に手を入れるとなると、内部の配線をハンダゴテで外していかないと分解もままならない。

 実は中古カメラ市場には、Electro 35は山ほど存在する。なにしろシリーズで約500万台も売れたカメラなので、完動品も珍しくないし、ジャンクも相当の量がある。よほどYASHICAに思い入れでもない限り、あまり好きこのんで修理する人もいないカメラであり、僕自身も敬遠していたところがある。

 Electro 35は、自動露出機構を備えた電子シャッター式のレンジファインダー型カメラだ。その名前が示すとおり、それまでは機械的な動作で行っていたシャッターも大胆に電化したことで、動作の安定性を確保した。初代モデルは1966年の発売だが、今回購入したElecrto 35 GT(S)は1970年発売のものである。

3000円で購入したElecrto 35 GT(S)のジャンク

 見た目は大変大型で、ほぼ一眼レフと変わりないサイズだ。レンズも大口径で、45ミリ/F1.7のCOLOR YASHINON DXが付いている。この明るいレンズと、電子シャッターによる低速シャッター動作の安定性で、「ろうそく1本の光でも写る」がキャッチフレーズだったそうである。

45ミリ/F1.7のCOLOR YASHINON DX

 電子シャッター搭載というところから、Elecrto 35を「電子カメラ」と呼ぶことも多いようだが、筆者は「電気カメラ」だと思っている。ElectroをElectronicの略ととらえるならば「電子」だが、Electroの元々の意味は「電気の」である。1960年代においてはまだいろんな機能が集積化されておらず、抵抗とICと電気配線の固まりだ。次回中身をご覧いただくわけだが、それを見れば筆者が「電気カメラ」と言う理由がお分かりになるだろう。

機械式としても高い完成度

 露出を自動化するとは言っても、絞りは5枚羽根の機械式であるから、シャッタースピードを自動で調整する、いわゆる絞り優先EEということになる。シャッタースピードは、3分から1/500秒まで。バルブではなく、3分というシャッタースピードがコントロールできるカメラが1960年代からあったことに驚く。

※絞り優先EE……撮影者が絞り値を決めると、それに適したシャッター速度になる自動露出機構。

 当然手持ちで3分も頑張れるわけはないので、1/30秒以下になる時は、ファインダー内とボディ上部にある黄色いランプが点灯する。この時代のことだからLEDではなく、いわゆる麦球と言われる電球である(黄色のLEDが登場したのは1972年)。絞りリングには黄色い矢印が付いているので、この黄色いランプがついたらこっちに回すのだな、ということが分かる。

手ブレ注意と露出オーバーの警告ランプ

 逆に1/500秒を超える場合は、赤いランプがつく。絞りリングには黄色とは逆向きに赤い矢印が付いているので、そっち方向に回すということが分かる。さらにリングには「晴れ」「くもり」「室内(窓)」のアイコンが記されており、撮影条件でだいたいその辺に合わせておけば、あとはカメラがうまく撮ってくれるというわけだ。見かけは本格派で大仰だが、初心者にも優しいカメラなのである。

絞りリングに矢印がある

 フィルム感度は、ASA25から1000まで対応する。上部の感度設定リングを回すと、そのすぐ下にある露出計の小窓内にある絞りが動く。露出計の値を電気的にオフセットするのではなく、絞りを使って機械的に調整するというのはなかなか大胆だ。

フィルム感度に合わせて露出計の絞りが開閉する

 フォーカスはもちろん手動だが、ファインダー内に二重像があり、それを合わせるスタイルだ。最短で0.8メートル。さらにすごいのが、ファインダー内には画角を示す黄色い枠があるのだが、それが距離に合わせて移動する。

 レンジファインダー機は、レンズの位置とファインダーの位置がずれているので、近距離を撮ろうとすると、ファインダーで見えている範囲と実際に撮れる(レンズが狙っている)範囲が違ってくる。普通はそれを人間がカンで補正するのだが、Electro 35は画角の枠を機械的に動かすことで、この補正までやってくれるのである。

 電気式がウリのカメラだが、機械式部分の完成度も非常に高い。それゆえ、難易度が高いわけである。果たしてうまく直るだろうか。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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