もはや“ゆでガエル”現象なのか? 日本の人口問題藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年08月17日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 総選挙が告示され、8月30日の投票日に向けて、一斉に現職も新人候補者も正式に走り出す。政権交代が実現しそうだということで、何となく政治家は浮き足だっているようにも見える。残暑が厳しい中で政治家にとってはいっそう暑い夏になるに違いない。

これからの日本の姿

 いまいちばん問われるべきは、これからの日本の姿であることに反対する人はあまり多くはないと思う。中でも最大の問題は何か。それは高齢化が急速に進むと同時に、人口が減少する社会になっていることだ。

 人口が減るということがどれほどの大問題なのか、その認識がいまひとつ欠けているように思う。自民党も民主党も子育て支援という姿勢を色濃く打ち出しているが、それによって人口が増えるのを待つというのは、たとえて言えば「百年河清を待つ」ような話だ。

 人口を維持するためにはいわゆる合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)が2を若干上回らなければならないとされているが、日本は3年連続で上昇しているとはいえ、1.37(2008年)にしかすぎない。とても人口を維持することは不可能なのである。

 人口が維持できなければ何が問題か。よく生産人口が減るということが指摘されるが、それは大した問題ではないのかもしれない。たとえ生産人口が減っても、生産性を上昇させるとか、企業の定年を延長するなどによって不足する労働者を補うことはできるだろう。まして日本の場合は、女性の労働人口の割合が先進各国に比べれば少ない。

 25歳から29歳の年齢層では、ドイツや米国、スウェーデンと比べてもそう大きな差はないが、30歳代から40歳代になるとぐんと低くなる。30代前半では日本が61.4%であるのに対し、スウェーデンは83.7%にも達している。要するに出産したり子どもを育てるために、仕事から離れざるをえない女性がたくさんいるという話である(このような状況に対しては、保育所の待機児童をなくすというような対策が有効だろうと思う)。

 しかし生産だけではない。問題は需要側にあると思う。子どもの数が減るということは、それだけベビー用品からおもちゃ、ベッド、衣類などなど赤ちゃんにまつわる商品の販売が減る。毎年子どもの数が1%減れば、こうした商品の売り上げも1%自動的に減ることになる。もちろん出生数が増えればその逆になる。

 そして子どもの数が減れば、人口構成が頭でっかちになる。つまり団塊の世代が60歳を過ぎて、この世代を支える若い世代の幹が細くなるのである。周知の通り、それによって、医療費も年金も大きな影響を受ける。

 こうしたことは予測しえたのに、大きな声で警鐘を鳴らした人はほとんど見当たらない。それはなぜなのか。人口と経済成長の間にどれだけ因果関係があるのかがはっきりと論証されていなかったからだろうか。それとも、人口問題を論じれば、その議論の行き着く先は移民問題につながってきかねないからだろうか。実際、移民については、強いアレルギー反応を示す人もたくさんいる。

 しかし人口が減り、高齢化する社会は、活力を失う社会である。国の社会保障を信用していない高齢者は、自分の貯金を使おうとはしない。ましてこの金融危機で金融資産にかなり大きなダメージを被った人々はなおさら財布のひもを固く締めているだろう。

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