コラム
» 2009年08月03日 07時00分 UPDATE

差別化のポイントは“人”、トレーダー・ジョーの販売戦略 (1/2)

「より多くの選択肢」を「より安く」「より簡単に」探し出すことを求めて、Webへの顧客大移動が起こっている昨今。小売では「訪れる意義のある店舗作り」が問われてきている。その中でも米国店舗市場で独特のポジショニングを築いているトレーダー・ジョーの戦略を分析してみた。

[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」がある。


 最近、買い物をしていて思うこと。それは、米国の「店頭」や「コンタクトセンター」などといった「接点」が大きく豹変してきているということだ。

 私がここでフォーカスしたいのは、「人」ならではの力を活用した接点の大変革である。個々人のもつ個性やパーソナリティ、知識や感性、表現力などのアセットを最大限に発揮させ、「唯一無二のお客様体験」の創造を目指す試みが、そこかしこに見られるようになってきているという話だ。

 一例として、米国に「トレーダー・ジョー(Trader Joe's)」というスーパーマーケット・チェーンがある。「貿易商ジョーの店」というその名の通り、食品、ワインを中心に、世界中から買い集めてきたありとあらゆる商品をところ狭しと並べて売っている。ほとんどが、この店でしか買えない「プライベート・ブランド商品」であり、行けば必ず、面白いもの、珍しいもの、掘り出しものが売っているという期待感を抱かせてくれる店である。

ah_torezyo.jpg トレーダー・ジョー公式Webサイト

 しかし、この店の魅力は単なる商品力に留まらない。「近所の店」「馴染みの店」を思わせる独特の接客も、他店にはない価値を生み出している。

 店ごとに思い思いの装飾を施したレジでは、ハワイアン・シャツを着た店員が笑顔でお客を迎える。お決まりの「Hi,how are you?」だけではなくて、「欲しいものは見つかった?」に始まり、買い物カゴの中身についても、和気あいあいとした会話が続く。「それは僕も食べた。最高だよね」とか、「それが好きなら、●●という商品も試してみたらいい」などなど……。マーケティングの言葉でいえば、「クロスセル」「アップセル」などといった類のトークもあるわけだが、わざとらしさは少しもない。店員がみな、自分の個性を発揮して、お客との触れ合いを本当に楽しんでいるという感じだ。

 かくいう私も、つい先日、このトレーダー・ジョーの店員から、コーンの調理法についてのアドバイスをもらった。「コーンをゆでるなら、お湯の中に砂糖を少しだけ入れるといい。隠し味になるし、日持ちもよくなる」と、店員は親切に教えてくれた。

 アメリカの標準から言えば、小さめのスペースにあふれるほど商品を詰め込んだトレーダー・ジョーの店舗は、せせこましくさえ見える。ちょっと視察に訪れるだけではその良さが分からないかもしれない。しかし、我々地元の者にとっては特別な愛着を感じさせる、「なくてはならない」店舗になっている。

 現在、トレーダー・ジョーは南カリフォルニアを拠点に、全米に324店舗をもつ。ドイツの大手スーパー、アルディのオーナーでもある資産家、テオ・アルブレヒトの後ろ盾を受ける私企業だから、売り上げは公開されていないが、年商およそ72億ドルだと言われている。「世界最大の自然食品スーパー」と誉れの高いホールフーズ・マーケットと、ほぼ互角の規模であるということになる。まさしく、米国スーパーマーケット業界の「ダーク・ホース」的存在である。

ah_rokesyo.jpg トレーダー・ジョーの店舗網(出典:トレーダー・ジョー)
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