東陶機器のイノベーションは続く。1988年、女性用消音装置「音姫」が誕生。女性たちが、用をたす際に排尿・排便の音を他人に聞かれるのを嫌い、トイレの水を余計に流す習慣に鑑み、この商品は開発された。
消音装置自体は「音消し壺」の例に見るように、江戸時代から存在するが、それを水資源の節約という観点から商品化した点にこそ音姫の独自性はある。現在のように、地球環境問題が騒がれるはるか前からこうした取り組みが行われた背景には、東陶機器が本社を置く福岡県が、日本有数の渇水地帯だったことがあろう。
1978年の福岡大渇水後、福岡市が節水条例を制定したのを機に、同社は節水型便器を開発した。それ以降、同社製品は節水型をスタンダードにして、現在のような世界のトイレ市場をリードする超節水型へと進化・成長していくのである。
林さんはさらにこう語る。「1992年には、ウォシュレットに脱臭機能が付いたんですよ。フレグランス系のトイレ消臭剤が世の中に出回っていますが、出したモノの匂い自体がなくなるわけではないので根本的な解決にはなりません。
この機能は家庭で、子どもたちに『お父さんが使った後は臭いから嫌だ』と言われている現実に注目し、そうしたお父さんたちの、家庭内での肩身の狭い思いを解決してあげたいという願いがこもっているんです」
それ以降のウォシュレットをめぐるイノベーションは留まるところを知らず、今や、ハイテク機器そのものとなっている。しかも、ハイテク機器にありがちな一部マニアにしか使いこなせないという欠点を克服し、身体障害者や高齢者、そして幼い子どもたちであっても、気軽に心地よく利用できるようにしている点は評価されよう。
一例を挙げるならば、最新型ウォシュレットの操作のベースとなるフラットリモコンは、指や手を使わなくとも、肘などでも押せるようになっており、ノーマライゼーション実現に貢献する製品になっている。
以上のようなTOTOのウォシュレットを中心とする商品群は、世界各国でも高い評価を得ているようである。
「でも、最初は大変だったんですよ」と、林さんは苦笑する。
「1994年から1998年まで米国でセールスエンジニアの立場で販売に携わったのですが、米国は本当に難しかったのです。なにしろ、元々がトイレと同じ空間にシャワーが存在する文化ですから、便器にシャワーが付いていることに意味を感じてもらえなかったんですよ。特に東海岸は、保守的で難しかったですね。
それに加えて米国の3大ネットワークでは、下半身絡みのCMは流せませんでしたから、なおのこと難しかったんです。
しかしそうした状況が一変したのは、長野冬季五輪(1998年)でした。3大ネットワークがこう報じたんですよ。『日本のトイレの便座はいつも誰かが使った後である。いつも温かい。しかもシャワーが付いている』と。まずはヒーター機能が注目されたんですね」
これ以降、次第に状況は好転していったようだ。
「それでも、ブランドの大切さを痛感しましたね。当時、米国でTOTOと言っても現地の人は誰も知らない。あくまでも、Made in JAPANということで評価してくれたんです」
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