コラム
» 2009年07月28日 07時00分 UPDATE

Amazon.comが屈した史上最強の顧客主導型企業「Zappos.com」 (1/2)

米国時間7月22日にAmazon.com(アマゾン)が発表したZappos.com(ザッポス)の買収。ザッポスは米国で靴のネット通販という市場を切り開いたパイオニア的存在。アマゾンは何を目的に買収したのだろうか。

[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」がある。


 米国時間7月22日、Amazon.com(アマゾン)が「Zappos.com(ザッポス)」という会社の買収を発表した。その買収の背後にあるアマゾンの真意は何なのだろうか?

ah_zapo.jpg Zappos公式Webサイト

 「ザッポス」については以前、「最も働きたい会社ベスト100に見る、感動サービス時代の幕開け」という題名で書いたことがある。ザッポスは米国で靴のネット通販という市場を切り開いたパイオニア的存在である。アマゾンの「Javari(ジャヴァリ)」が産声を上げるはるか昔に、「ネットで靴を買う」という非常識を常識に変えたのがザッポスであった。送料は行きも帰り(返品)も無料、365日返品OKなど、今日、靴のネット通販市場でスタンダード化しているサービス・ポリシーの数々も、もとはといえばザッポスが考案したものだ。

 そのザッポスを、アマゾンが買収した。そのニュースを耳にした時、私の体の中に衝撃が走った。この買収がごく普通の買収でないことが、一目瞭然であったからである。

 普通、買収というと「強者が弱者を買う」というイメージがある。この公式に当てはめて考えると「アマゾンが強者、ザッポスが弱者」ということになるが、実のところはどうか。私はそうは思わない。

 「Customer Obsession(顧客満足への執着)」を共通項としながら、アマゾンとザッポスは対極のアプローチをとってきた。アマゾンは「最新のITを駆使し、顧客満足を自動化する」、ザッポスは「人とITの強みをフル活用し、最強の顧客感動体験を創造する」アプローチだ。「Web時代における究極の顧客エクスペリエンスの実現」という点でアマゾンに勝てるのはザッポスしかない、と私は常日頃からずっと主張してきた。

 実は1年ほど前から、私はザッポスの研究を続けてきた。「感動サービス」の時代に、モノではなく、ハピネスを売り物にする新しい流通の姿としてザッポスから学んだことを、最近、本に書き上げたばかりだ。

 ザッポスは「企業文化こそがブランドであり、競争優位である」と公言してはばからず、会社最大のアセットである「人」に並々ならぬ投資をする。顧客エクスペリエンス創造の中核となるのは「CLT(顧客ロイヤルティ・チーム)」と呼ばれるコンタクト・センター。コールスクリプト※も対応時間の制限も存在しない、常識破りのコンタクト・センターである。

※コールスクリプト……コールセンターや電話営業などで電話を利用する際に使う機能。あらかじめ顧客情報などを入力しておくことにより、想定問答が「Yes」「No」の分岐で表れ、それに従って問答を進めることにより標準的な電話によるサポートやサービスを実現できるというもの。

 顧客の心を揺り動かすためなら「ほとんど何をしてもよい」裁量権をオペレーターが持つコンタクト・センターは、顧客が忘れることのできない感動のサービスを日々創造している。かつて、コールセンターの電話番号をひた隠しにしていたアマゾンとは、まったく対照的だ。

 私も本を書くに当たってザッポスを数日間密着取材したが、社内全体が会社という共同体への献心と愛に満ちていた。ただのモノ売りの会社ではない。「感動を創りだすことによって、何か大きなことを成し遂げようとしているのだ」という覇気が社員1人1人からひしひしと感じられた。

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