メディアは“悪しき前例”を忘れたのか? モノ言えぬ記者が増える土壌相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年07月23日 07時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載中。


 新聞、テレビ、雑誌という大メディアは、広告の存在抜きに成り立たない――。このことを多くの読者はご存じだろう。昨今の大不況の中、広告の現状はどうなっているのか。筆者に寄せられた友人からの問い合わせを軸に考えてみたい。

 友人の問いとは、「出稿された広告が健全か否か」という内容だった。筆者は広告に関しては全くの素人だが、手探りで調べてみると、危うい側面が透けて見えてきた。

素朴な疑問

 「身近な人が◯△マルチにはまってしまいました。説得するために、色々と調べています。お尋ねしたいのは、この企業が雑誌◯△×に広告を出す際に、何か審査はあるのでしょうか?

 他にも◯□のスポンサー、テレビ、公共施設等に広告があるそうです。それらを誇示し、信じこませているのです。 お金があれば広告なんていくらでも(出せる)と思うのですが、実際どうなのでしょう?」

※ほぼ原文通り、掲載しています。固有名詞は筆者により伏せ字加工。

 これが最近友人から寄せられたメールの要旨だ。怪しげなマルチ商法から親しい人を救い出したいという一方で、当該企業の広告を載せているメディアの実態はどうなっているのか、という問いだった。当然、指摘された媒体、すなわち雑誌やテレビ、あるいは公共施設にはそれぞれ扱う広告に対する基準が存在する。いずれも大手であり、反社会的勢力などに対する意識の高い企業であることは言うまでもない。

 筆者は広告に関する知識が乏しいため、広告代理店に勤務する知人らの知恵を借りた。消費者の指摘で中身を審査する日本広告審査機構(JARO)、あるいはテレビや新聞の依頼を受けて広告主を実地調査する新聞広告審査協会(NARC)などに相談するよう勧めた。残念ながら、友人が名指しした企業を詳しく取材する時間もなく、この友人が筆者の名前を使って当該企業に怒鳴り込んでも、個人として責任を負えないと判断したからだ。

 だが、後に自身の取材ルートをたぐると、冒頭で触れた「◯△マルチ」を主宰する人物は、同種のビジネスを多数渡り歩いた経歴を持ち、業界では名の知れた存在だったことが判明した。筆者は件(くだん)の友人に対し、補足的な情報としてこのネタを伝えた。

 なぜ筆者がこうした情報を伝えたかと言えば、メディア界で悪しき前例があったからだ。それはIP電話を手掛ける近未来通信が2006年、虚偽の説明で一般投資家から巨額資金を集めた投資詐欺事件が起こったからに他ならない(関連記事)。同社は、大新聞やテレビに頻繁に広告を出稿し、多数の一般投資家を欺いていたのだ。

 事件が表面化して以降、自らの紙面で被害者に侘(わ)びたメディアはあったが、その後、業界全体が再発防止に向けて有効な手立てを取ったとは思えず、件の友人には、自主防衛策の一環として、ささやかな手助けをさせてもらったというわけだ。

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