ソ連版スペースシャトルって知ってる? 価格1ユーロの「ブラン」を見てきた松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2009年07月21日 07時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)


 1969年7月20日。人類は月面に初めてその足跡を記した。最も身近な天体である月は古今東西、人の好奇心をかき立て、人は新たな挑戦を求め宇宙へと飛び立ってゆく。今回の時事日想は月着陸40周年にちなみ、ソ連版スペースシャトル「ブラン」を展示するドイツのシュパイヤー技術博物館を取り上げたい。

 2008年4月に中東から海路と陸路で運び込まれたブラン002号機は大気圏外こそ飛行していないものの、大気圏内を25回飛行した実機である。空を飛んだブランは2機しか現存しておらず、ロシア以外では唯一のフルスケールモデルという極めて貴重な機体だ。

打ち上げを待つブラン(シュパイヤー技術博物館のパンフレットより)

幻の機体

 (米国の)スペースシャトルはメディアに登場する機会が多く比較的馴染みもあるが、ソ連版スペースシャトル「ブラン」を詳しく知る方は少ないと思う。さらに、実機を見たことのある人はごく少数ではないだろうか。

 それもそのはず。ブランは完成したものの実際に宇宙を飛行したのはわずか一度だけ。ソ連はプロジェクトのためテスト用機体8機と実証用機体4機の製造に着手したが、体制崩壊とともに計画はストップし、空を飛べるまでに完成したものは数えるほどしかなかった。ブランプロジェクトは巨額の資金を必要とし、それがソ連の困窮を深め体制崩壊を早めたとの説さえある。

 バイコヌール宇宙基地の格納庫に保管されていた実証用1号機(1988年に大気圏外を飛んだ唯一の機体)は、残念ながら2002年の格納庫崩壊により残骸化してしまった。これは運営資金不足で格納庫の保守がなされなかったのが原因のようだ。実証用2号機はほぼ完成していたが、現在はレストランや宇宙映像を流す小さな映画館となりモスクワのゴーリキー公園に展示されているらしい。

 現存する最も完成度の高い機体であるブラン002はシドニーオリンピックの際に展示された後、バーレーンに輸送され砂漠で野ざらし状態にあった。博物館は外交ルートを用いてその入手に成功。その価格はわずか1ユーロだったが、輸送と展示ホール建設には多額の費用(計1000万ユーロ)がかかっている。

仮展示されるているブラン。翼は輸送のため取り外されている
後部(左)、頭部(右)

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