コラム
» 2009年07月06日 07時03分 UPDATE

藤田正美の時事日想:メディアに“誘導”されてはダメ……総選挙で問われるもの

最近「選挙はいつになるのか?」といった話題が増えてきた。いわゆる“政局”やそれに伴う票読みなどに目を奪われがちになるが、我々国民はもっと根本的な問題を考える必要があるのではないだろうか?

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 総選挙がいつになるのか、最近はそればかりが話題になっている。7月12日の都議選は麻生総理にとっては自分の命運を決する戦いであり、そこに負けると自民党総裁の座から引きずり降ろされるかもしれない。負ける前に解散するとか、解散を「予告」するとか、総裁選を前倒しにするとか、麻生総裁の下に団結して戦うとか、いろいろ議論がかまびすしい。選挙というのは政治家にとっては大変なことなのだと改めて思う。

 しかし任期満了まであと2カ月しかないのだから、いつ解散しようがしまいが、大勢に影響はない。たとえ影響があったとしても、たかがしれている。今回の総選挙で言えば、民主党によほどの“エラー”でもない限り、自民党が大敗し、政権政党の座を失う可能性が高いと思う。

 それだけに一刻も早く自民党と民主党で「日本の将来像」について論戦を戦わせてほしいと思う。自民党の一部でも「マニフェストなくして選挙なし」というような言い方があった。理念に基づいて選挙公約を訴えるという民主主義の基本に立ち返るべきである。

選挙のテーマは?

 その中で最も重要なポイントは、急速に高齢化が進むと同時に人口が減りはじめたこの日本社会を、我々はどうするべきなのかということだ。高齢化が進めば当然、社会的なコストは増える。医療にしても介護にしても、そして年金も、若者が老人を支えているという構造が持続不可能になるだろう。もちろん税金を投入してある程度カバーすることも可能だろう。実際、民主党は基礎年金については税金を財源にすると主張している。しかしそれですら、税金を主に負担する現役世代が相対的に少なくなってくれば、当然「もういい加減にしてくれ」ということにもなりかねないのである。

 そうなる前に、我々は税金の使い道や国の有り様について議論しなければならないと思う。「税金が上がるのは困る」とか「まずは無駄遣いを止めるべき」「役所を合理化すべき」といった議論だけではとうてい足りない。何が無駄遣いなのか、どの役所をなくしてもいいのか、それが国のサービスにどのような影響を与えるのか、具体的に話し合わなければならない時期になっている。

 例えば医療。医療費の総額は約33兆円である(2006年)。それを誰が負担しているのか。公費による補助が12兆円、保険料が16兆円、患者負担が4兆8000億円ほどになる。保険料で支払われている分の6兆7000億円が事業主が支払った保険料の分、そして9兆5000円が被保険者が支払った保険料から支払われた分だ。

 それが医療にかかる費用ということなのだが、それで国民は日本の医療に満足しているか、あるいは安心しているかというと、そうでもない。例えば最近の産科医不足。子どもを増やすことが国の政策として取り上げられているという一方で、お産ができる病院が減っている。私の住む横浜は「お産難民」が増えているところとしても有名だ。

 産科医が減っているのは、24時間待ったなしの激務であるということのほか、お産でもし事故があればすぐに医療過誤として訴えられるという事情もある。そのため産科を志望する医学生が減っているのだという。昨年、無罪が確定した福島県立大野病院のケースは、医療に警察や検察が介入することの是非をめぐって、医療界や司法界で大論争となった。

 医療事故を嘆いたり、医療事故に怒ったりするだけではもはや医療の問題を解決することはできない。医療にどれぐらいのお金をかけるべきなのか、医師や看護師の待遇、病院の経営をどうすべきなのか、そこを真剣に考え、議論しなければ日本の医療も健康保険制度も本当に崩壊してしまう。

日本という国は沈没するかもしれない

 もちろん医療だけではない。介護ももう待ったなしの状況だし、年金も社会保険庁の不祥事だけではなく制度としてどうやって維持するかを決めなければならない。そしてそれが今度の総選挙の大きなテーマの1つであるべきだということである。

 いわゆる「政局」とか、それに伴う票読みとか、そういったことばかりに目を奪われるのは、テレビを中心とするマスメディアがそのように「誘導する」からでもあると思うが、国民自身がもっと根本的な問題を議論するという姿勢を持つことが、何よりも重要だと思う。そして国の将来についてビジョンを提示するリーダーを選ぶということに真剣にならなければ、日本という国は本当に沈没してしまうかもしれないのである。

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