コラム
» 2009年07月02日 07時00分 UPDATE

ミツバチ失踪で農業生産が停止?――アインシュタインの危惧は現実になるか (1/2)

「これがなくなったら、人間が生きていけない」というものは何かと問われたら、あなたは何と答えるだろうか? かのアインシュタインは、「もし、ハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」と予言した。

[井上卓哉,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:井上卓哉(いのうえ・たくや)

PMIコンサルティング シニアマネジャー。人を深く理解し、人に働きかける“アセスメントベースドコンサルテーション”を中心にコンサルティング活動を展開している。


 「これがなくなったら、人間が生きていけない」というものは何かと問われたら、あなたは何と答えるだろうか? 空気、水、塩、糖分など、山での遭難から生還した人が携行していたものを思い浮かべる人もいるだろう。

 だが、どんなに想像力の豊かな人でも、「ミツバチ」という解を挙げる人はそうはいないはずだ。かのアインシュタインは、「もし、ハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」と予言した。

 なぜならば、ハチがいなくなると、受粉ができなくなり、植物がいなくなる。そうなると、植物の光合成によって酸素が供給されず、人間は野菜から必要な栄養分を摂取することもできなくなる。その結果、人間も地球上からいなくならざるを得ないということだ。この「風が吹けば桶屋がもうかる」式の論法には賛否両論があるが、この予言の真偽に判定が下される日もそう遠くはないのかもしれない。

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世界中でミツバチが失踪

 2006年秋、米国で数人の養蜂家が、セイヨウミツバチが巣箱からすっかり消えているのを発見した。その後全米の35州、180億匹のセイヨウミツバチが短期間に巣から失踪(そう)していることが確認された。

 今でこそ「蜂群崩壊症候群」(以下、CCD:Colony Collapse Disorder)という名前が付けられるほど知られるようになった現象だが、女王バチや生まれて間もないハチを置き去りにして働きバチがこつぜんと姿を消すという状況に、何十年もハチとともに生きてきた養蜂家も事態の掌握に随分時間がかかったという。ミツバチの死体もないのだから、原因の特定すら困難なのだ。

 最新の技術を取り入れて集中管理を行ってきた自負のある養蜂家のショックは計り知れないが、その影響は養蜂家の収益悪化にとどまらない。現在米国では、アーモンドやズッキーニなど100以上の農作物の商業的生産がミツバチの媒介に依存している。ミツバチの不足はこれらの商品供給の停止を意味するといっても過言ではないのだ。

 そして、同様の現象が日本でも確認され始めた。2009年4月に行われた農林水産省の調査では、山形県、栃木県、静岡県、岡山県、鹿児島県など計21都県で、いちご・メロンなどの果物やすいか・なす・かぼちゃなどの野菜を育てる上での受粉に必要なミツバチが不足していることが明らかになった。

 本来日本に生息するニホンミツバチや、花粉を運ぶそのほかの虫の数に変化は見られないが、受粉用に飼育されたセイヨウミツバチは減少が確認されている。これによって、ミツバチの売買価格やレンタル料金が4割〜5割値上がり、人手で受粉する農家も増えており、生産コストは上昇傾向にある。

 当然これらのコスト増大は、消費者価格に転嫁せざるをえなくなる。これまでも低収益に悩まされていた農家では、廃業に追い込まれるケースも出てくるだろう。また、こうした経済面での影響だけでなく、十分な受粉がされず、でこぼことした形で緑色のまま成長が止まる「奇形いちご」も生まれている。

ah_mituzyu.jpg ミツバチの需給調整システム(出典:農林水産省)

 この状況を見て、農林水産省は大きく2つの対策に着手した。1つは各県や関係団体と連携した、ミツバチの需給調整システムの構築である。県単位で園芸農家から、不足蜂群数の申告を受け、養蜂家からの調達を仲介するとともに、 日本養蜂はちみつ協会や専門共有業者を介して県を超えてミツバチの供給を行うものだ。

 もう1つは、園芸農家への経営支援である。一定の自助努力を前提に、政策金融公庫や農林漁業セーフティーネット資金の活用をしやすくする。これらの対策は、経済的な観点で市場の安定化に短期的には寄与すると考えられる。初期調査から2週間で対応策を発出した初動の速さも非難には当たらない。

 しかし、構造的に需給バランスを調整するような効果が期待できないことは誰の目にも明らかである。同時に、農林水産省はアルゼンチンからミツバチを生む女王バチの輸入の検討も行っていくと発表した。しかし、「アフリカ化」と呼ばれる気性が荒くて攻撃性の強いハチが日本の養蜂家の手に負えるのか懸念する農家も多い。

 さらに、日本の生態系に適応し、病原菌に侵されていないかを検閲できたと言い切ることは難しいと指摘する専門家もいる。動植物の移動に伴う影響は必ずしも、人間の予想や想定の範囲に収まるものではなく、日本の養蜂に適したハチを特定することもそれを正しく選出することも難しいということだ。ハチは、機械の部品と同様に規格検査することはできないのである。

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