アレもコレも心もとない……日本経済の弱点は?藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年06月29日 07時43分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 日本経済が下げ止まっているとしても、昔の日本に戻れるわけではない、とずっと考えている。なんといっても、人口が減っているのは大問題なのである。それは最終需要である消費がその分マイナスになってしまうからである。もちろんそれぞれの個人が消費を増やせば、人口の落ち込み分ぐらいはカバーできるかもしれないが、そう簡単にはいかない。

 第1に、それぞれの個人が消費を増やすということは、貯蓄を減らして消費に回すということで、その分、年金や医療や介護について国を信頼していなければならない。第2に、国内需要が落ち込んで輸出もままならないとすれば、企業は人を減らすだろうし、残業も減る。可処分所得が減るわけで、その中で消費を増やすには二重にハードルがある。

弱い会社は市場から撤退すべき

 そんな中で、最近、相次いで日本経済について厳しく見ている記事を読んだ。1つは、お馴染みの英エコノミスト誌。もう1つは、地政学分析の専門誌Stratforである。ここではエコノミスト誌の記事を紹介する(関連リンク)

 エコノミスト誌の記者は、日本の産業界は長い間、家族的資本主義を実践しているという。いい時代には、産業の結託(もたれ合いというほうがいいかもしれない)が事実上、公式の政策だ。いわゆる「護送船団方式」で、より大きな優良企業が先頭を走るが、落ちこぼれそうな企業もそれなりの市場シェアをもらって生き延びてきた。

 そして政治家は、景気がいいときでも痛みが伴う構造改革を推進しようとはしたがらず、景気が悪いときにはなおさらやりたがない。そして銀行は政府から、企業融資を継続するように圧力をかけられ、企業は取引関係を維持し、場合によっては信用供与を増やすように要請される。そして政府は企業を直接に支援する。半導体のエルピーダ、パイオニア、日本航空などの会社に税金を注ぎ込むのだ。

 企業に対する支援は、この世界同時不況のなかでは珍しいことではない。金融機関への支援は言うに及ばず、一般企業(例えば米国のGM)への支援も行っている。しかし欧米ではこうした支援は例外的であるのに対し、日本では日本的システムの中心なのだ。病んだ企業の命を永らえさせれば、より健全な企業の足を引っ張り、ひいては経済全体に悪影響を与えることになる。そして日本は、弱い企業を甘やかすことのリスクを極端な形で示しているのである。

 弱い会社は市場から撤退するか、あるいは他社に吸収されるべきだ。例えば日本では携帯電話を造っている会社は8社もあり、その中で大きな利益を出している会社はほとんどない。これが価格を抑え、採算性を低下させ、その結果、経営成績のいい企業が有能な人々を雇うための資金が足りなくなる。この不況に陥る前、日本企業のROE(株式収益率)※は平均約10%だったが、これは米企業の約半分にしかすぎない。

※株主資本(株主による資金=自己資本)が、企業の利益(収益)にどれだけつながったのかを示す。

 同じように、企業の倒産率も米国や英国のほぼ半分。日本の倒産件数は、今年、約15%程度増えると見られているが、西欧は約30%、そして米国は40%も増えるとされている。通常は倒産件数が少ないということは経済が活力を取り戻しているというサインなのだが、日本の場合は、経済の弱点を表している。

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