どん底からスタートする思いとは――トヨタの豊田章男新社長就任後初会見を詳細レポート(1/5 ページ)

» 2009年06月26日 08時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 トヨタ自動車の豊田章男社長は6月25日、東京都江東区のMEGA WEBで6月23日の就任後初となる記者会見を開催した。金融不況による需要減退で販売不振に陥り、2009年度3月期決算で4369億円の最終赤字を計上したトヨタ自動車。同社は2期連続の赤字を見込んでいるが、豊田社長はどのように黒字化への道筋を描いているのだろうか。豊田社長と5人の副社長が参加した会見の模様を詳細にお伝えする。

左から佐々木眞一副社長、布野幸利副社長、豊田章男社長、内山田竹志副社長、新美篤志副社長、一丸陽一郎副社長

どん底からのスタート

豊田章男社長

豊田 2008年後半以降、世界の自動車産業は大きな困難に直面しています。当社に関しては、2008年度は4610億円の営業赤字となりました。また、今期についても2008年度を上回る赤字を見込んでおり、私ども、この新しいチームは、まさに「嵐の中の船出である」と感じています。

 トヨタは創業以来、常に「社会のお役に立ちたい」ということを企業の理念としてきました。1935年に豊田佐吉の遺訓として策定された豊田綱領の第1項に「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし」という言葉があります。「いいクルマをつくり、社会に貢献すべし」ということです。

 「社会に貢献する」という言葉をかみ砕いて言えば、1つは「クルマ作りを通じて社会のニーズに応え、人々の暮らしを豊かにすること」、そしてもう1つは「地域に根ざした企業として雇用を生み出し、税を納め、地域経済を豊かにすること」だと思います。それが、足下では、赤字に陥り、税を納めるという最低限の務めすら果たせない状況です。正直、私は本当に悔しい思いでいっぱいです。まさにどん底からのスタートとなるわけです。

 しかし振り返れば、70年のトヨタの歴史は苦難の歴史でもありました。1950年には、倒産の危機に追い込まれたこともありました。全従業員8100人のおよそ4分の1に相当する2100人が退職を余儀なくされ、社長、副社長らも責任をとって退任しました。しかしこの経験が、今のトヨタを支える労使関係の出発点になりました。

 1970年代には、公害問題やオイルショックが自動車産業を襲い、また1980年代には、通商問題や輸出の自主規制という新たな課題を突きつけられましたが、米国を始め、世界の各地域で生産を立ち上げ、解決してきました。

 このように、トヨタはいくつもの困難を乗り越えてきました。それを可能にしたのは、「お客さま第一」「現地現物」のクルマ作りと、時代の変化に合わせ、技術革新や生産性向上に全世界の販売店、仕入れ先を含むトヨタグループが一丸となって取り組んできたからだと思います。

 2003年ごろからは、年50万台を上回る大変な勢いで拡大をしてきましたが、世界のお客さまのニーズにお応えすべく、ビジネスを拡大すること自体は、決して間違っていなかったと思います。ただ、身の丈を越えた仕事は、そのやり方や働き方などの点で、これまでのトヨタの強みが発揮できていなかったのではないかと思います。

 ですから、これからやるべきことは明らかです。「クルマ作りを通じて地域社会に貢献する」という創業以来の理念を改めて共有し、トヨタが苦難の時にも大切にしてきた考え方を実践することです。今後2年ほど厳しい状況が続くと思いますが、「販売店、仕入れ先を含むトヨタグループ全員が力を合わせ、お客さまや社会としっかり向き合っていけば、必ず力強いトヨタを再度、構築することができる」と考えています。そして、1期でも早く利益をあげて、納税できるようにすることが、どん底からスタートする私の最初の目標でもあります

「フルラインアップ」からの撤退

 こういった考え方を実践していくための経営の方向性について、お話しします。

 まず私が社内に徹底したいことは、「もっといいクルマを作ろうよ」というブレない軸を定め、商品を軸とした経営を行うことです。すなわち、「このクルマは何台売るのか」「どれくらい利益を出すのか」ではなく、「どのようなクルマなら、この地域で喜んでいただけるのか」「どれくらいの価格であれば、お客さまにご満足いただけるのか」ということを考え、クルマ作りを行う経営です。

 先日発売いたしました新型プリウスはこうした考え方を取り入れており、その結果、社会にもお客さまにも喜んでいただけるものとなりました。

 2つ目に考えているのは、地域、すなわちマーケットに軸足を置いた経営です。お客さまやマーケットを直視し、マーケットの変化をとらえ、その現場を熟知した人が迅速に判断する経営です。今回の副社長体制では、こうした考え方から各副社長は地域の責任者になります。後ほど各副社長からそれぞれの地域に対する思いをお話しします。

 各地域ではトヨタの果たすべき役割や、トヨタがそれぞれの地域でどのような存在を目指すのかを見定めて、地域ビジョンを明確化していきます。そしてトヨタの実力を照らし合わした上で、攻めるべき分野と退く分野を見定め、リソースを重点配分していきます。

 それを通して、トヨタの商品開発、商品ラインアップのあり方を、今後は地域中心のものに大きく舵(かじ)を切っていきたいと思います。これまではあらゆる地域で「フルラインアップ」を基本に商品戦略を考えてきましたが、今後は地域ごとに「必要十分なラインアップ」に見直していきます。さらにお客さまニーズを先取りした新コンセプトのクルマもそこに加えていくべきと考えています。

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.