フィンランドの取材で感じたこと。それは日本の将来のヒント藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年06月23日 07時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 優れた教育システムや社会システムで有名なフィンランドにバイオ医薬の取材に行ってきた。技術的に世界でどの程度先駆けているのかとか、それがどのような成果を生みそうかといったことは、実際のところまだよく分からないので、将来の実績を見守るしかないと思う。しかしフィンランドがどの方向に動こうとしているかはよく分かる。

 フィンランドの企業で世界的企業といえば、「ノキア」だろう。しかしフィンランドでよく聞かれたのは、「ITだけに頼る時代は終わった」という主旨の言葉である。もちろんITを捨てるわけではないとしても、それに取って代わる技術分野を確立することが必要だという認識は官庁や大学、研究所などいろいろなところで聞いた。

港に果物や水産物を売りに来る船

学術と芸術の融合

 今回の金融危機で、もちろんフィンランドも打撃を受けているとはいえ、相対的には傷が浅かった。それでも、この経済危機から脱却した後の経済構造は変わると考えている。というよりも「変わらなければならない」と考えているほうが正しいのかもしれない。

 そのあたりの大きな構図を分かりやすく説明してくれたのが、ヘルシンキ市のエーロ・ホルスティラ経済開発局長だ(フィンランドの場合、日本と違って県という行政組織がないため、地域については市が大きな権限をもっている)。1994年、フィンランドは不況に陥った。3年間で10万人の失業者が出たため、産業構造を変える必要があったのだ。大学、市、経済界が組んで、地域の産業クラスターの強化に取り組んだという。

 強い産業あるいは地域クラスターを形成すること以上に必要だったのは、知識の集積、技術の集積だ。そして学術と芸術の融合を目指した。

 フィンランドの人口は約530万、面積は約34万平方キロ。例えて言えば北海道の人口が日本とほぼ同じ面積に住んでいる国になる。日本と同じように、高齢化が進んでいるし、放っておけば人口が減ってしまう社会である。

 そうした社会で技術と知識を集積し、次のイノベーションを生み出すために何をすればいいのか。大学の国際的な評価を上げ、外国人が住みたくなるような環境を整えることによって、世界から優秀な人材が流れ込むようにすること。それが市の役割だとホルスティラ局長は言う。そのために港湾施設を移動させて新しい居住地区を建設もした。

 ヘルシンキ市の人口は2006年で56万人。総人口の約11%がヘルシンキに住んでいる。20年前には市民の1%が外国籍だった。しかし現在ではそれが約10%にまで上昇している。それは市がいい発展をしていることの証だとホルスティラ氏は言う。「どんな人がここに来るのか。それはイノベーション政策と関連している。学生や研究者を呼ぶために大学を国際化することや、外国企業を誘致するなどの方策を取る」

 ヘルシンキ大学は、大学ランキングで有名なQSのランキングで91位(2008年)。日本の大学では東京大学が19位、京都大学が25位、大阪大学が44位、東京工業大学が61位にランキングされている。ただヘルシンキ大学はこのところ毎年確実にランクを上げてきているし、学部でも英語で行う授業を増やしているほか修士課程以上の授業は英語に切り替えるなど外国人学生にとっていい環境を作ろうとしている。こういったことの効果が表れれば、ヘルシンキ市に住む外国籍の人々の割合が20%になることも十分考えられるのだという。

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