これまで電子マネー事業の推進というと、「加盟店の拡大」が至上命題のように考えられていた。しかし、ことでんでは当初計画よりも少ない加盟店数で、IruCa電子マネー加盟店拡大のアクセルを緩めている。それはなぜか。
「我々がIruCa電子マネーの加盟店を増やしていったのは、地域での生活を支えるカードにIruCaをしたかったからです。その点で言いますと、IruCaは香川大学の学生証に採用されたほか、高松市の公共施設などでも(IruCa電子マネーが使えるなど)広く使えるようになるなど、その目的が達成されてきている。ですから、無理に『電子マネー加盟店を広げていく』必要がないのです」(岡内氏)
このあたりはほかの電子マネー事業者や、JR東日本など大規模に交通IC電子マネーを展開する公共交通事業者と事情が異なるところだ。ことでんが電子マネーを手がけている理由は、交通・決済・ポイントが連携したICカードとして、『住民の生活を便利にすること』と『中心商店街を活性化して公共交通利用を促進する』ところにある。地域カードとして浸透するためのツールとして電子マネーを広げたのであり、電子マネー事業そのものの拡大が本来の目的ではない。
「我々は決済手数料でもうけようとは最初から考えていません。(この地域で)電子マネーが単独のビジネスとして成立するとは考えていないのです。実際、加盟店を増やせば増やすほど赤字なんですよ。むろん、それは地域カードとして普及させるために必要な投資として考えていましたが、無理に電子マネーを広めなくてもIruCaが地域カードになる手応えがありました。ユーザーや店舗からご要望があるところには、加盟店を広げます。しかし、我々から積極的に加盟店開拓をして、むりやり利用店舗を増やしていくといったことはしません」(岡内氏)
“電子マネーがもうからない”というのは、いささかショッキングな発言であるが、それは一面の真実でもある。電子マネー事業の主な収益源は加盟店からの決済手数料であるが、電子マネーはそもそも少額での決済利用が中心であるため、利用規模がかなり大きくならないとビジネスとして成立しない。そこが高額決済での利用や分割・リボ払い手数料なども見込めるクレジットカード事業との大きな違いだ。だから、Suica電子マネーやnanaco、WAONなどは、電子マネーとして「規模の拡大」と「利用率向上」で採算性確保の努力をする一方で、本業との連携や本業への貢献を重視したビジネス展開を行っているのだ。
一方、IruCaの「地域カードとしての広がり」は注目すべき部分がある。香川大学では約8,500枚の学生証がIruCa対応のFeliCaカードになったほか、高松市内では公共の駐車場や観光地、レンタサイクル、文化施設など多岐にわたる場所でIruCa電子マネーが利用できるようになっている。高松市では条例を一部改正してまで、公共施設でのIruCa対応を行ったというから、地域カードとしての定着は順調にいっていると言っていいだろう。
「これは皮肉なことなのですが、IruCaがここまで『地域カード』として受け入れられたのは、ことでんが交通事業の専業であることも理由として大きい。我々は2001年に民事再生法の適用を受けて経営再建し、その際に商業分野の事業を整理いたしました。
そして今は鉄道・バスという交通分野のみの事業となり、IruCaを導入・展開したわけですが、我々が商業分野を持たないことが、地域の商店街や行政機関との連携をしやすくしている一面はあると感じています」(岡内氏)
その上で、岡内氏は「地域活性化はビジネスとしてもうけようという考えで取り組むことではない」と言葉を重ねる。IruCaの展開で赤字にならないように努力はするが、地域カード化によって積極的に収益を上げる考えはないという。
「ビジネスとして(地域の)活性化ができるくらいなら、その地域は活性化を必要としていないのです。そうでないから地元の企業や自治体が少しずつリソースを持ち寄って、地域経済を盛りあげるために努力する。IruCaはそのためのツールになれればいい」(岡内氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング