しかしその結果は、どうだったのだろうか?
ひとつだけ明確に言えること――それは、経営効率を極限まで追求する経営というのは、上手に立ち回っているように見えて、その実、長い歴史を刻んでいけるほどの顧客からの信頼・共感・尊敬は得られない、ということである。
ベルクは言うまでもなく、創業から40年に満たない現代型のお店である。しかしその精神は、上記の創業1000年の老舗の宿とまったく共通している。
「自分の喜びを、顧客と分かち合いたくて新しいメニューを加えていく」という姿勢は、おそらくは無意識なのだろう。しかし主体としての自己と、客体としての自己を取り巻く森羅万象を、一体化した存在としてとらえている。そして、その中で「生かされている」ことへの感謝を込めて、もっともっと喜んでもらいたいという想いから、ムダ・ムラ・ムリを承知で、自ら楽しんで取り組んでいるのだろう。
そしてまた「たとえ1人でも2人でもよい、それを楽しみに来てくれるお客さんの笑顔がある限り、そのメニューはなくさない」という姿勢は、現代の大多数の企業にとっては非効率この上ないムダ・ムラ・ムリの典型にしか見えないことを、楽しんで実行している何よりの証拠である。
ベルクのこうした在り方は、まさに日本の老舗企業に特有というべき、「主客一如」型経営そのものである。
前編では、ベルクの経営の概要について触れた。後編ではベルクの歴史と、今後の展望を紹介する。とりわけベルクは、今、家主に当たるルミネによって、立ち退きを強制されるという前代未聞のトラブルに見舞われている。そのことも含め、明らかにしてゆきたい。
→なぜベルクには人が集まるのだろうか? 新宿駅にある小さな喫茶物語(後編)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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