君はベルクに行ったことがあるか? 新宿駅にある小さな喫茶物語(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(4/7 ページ)

» 2009年06月19日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

徹底した「こだわり」が生み出す限りない顧客満足

 ベルクに行かれた経験がなく、上記のメニュー一覧をご覧になった方は、ひょっとしてこんな感想を持つかもしれない。

 「ベルクって、要するに雑多な顧客を対象にして、何でも出してくれる昼間は喫茶店、夜は居酒屋みたいな店?」

 なるほど「モーニングセット」(セットの1〜3)があるところは喫茶店風だし、「純米酒」(アルコールの17、19)や「とりわさ」(おつまみの32)「いかくん」(お好み小袋の3)などがあるところは居酒屋風に感じるかもしれない。また何となく、どこにでもありそうな、割とフツーのお店……と思う人もいるだろう。

 いやいや、とんでもない。ベルクこそは低価格・高回転の飲食店として、いまどき珍しいほど、徹底的に味への「こだわり」を追求したお店なのである。

 「私たちの合言葉は、『どこにも真似できない』ということなんです。それで、そのために、『やたら』とこだわるんです」と井野さんは力強く語る。

 例えばコーヒー。おいしいコーヒーを出そうと思えば、少なくとも豆自体の品質、収穫後の経過日数、自家焙煎する場合の方法・技術などにこだわる必要があろう。

 日本には一見、世界中の有名ブランドコーヒーが入ってきているが、同じ高級ブランドであっても、質の高いものは主としてヨーロッパ諸国に輸出され、日本に回ってくるのは、質の落ちるものだというのは有名な話だ。しかも、収穫から時間の経った変質したものも多い(飲んだ後に、胸焼けしたり、胃の調子が悪くなるのは、大体これ)。

 「ですから、新鮮で天日乾燥した豆を世界中から探し出しているんですよ。それによって、コーヒー本来の甘みを出すことができるんです」

 こうしたこだわりを日々、実現してゆこうと思うならば、想いを同じくするコーヒーの名職人との出会いが必要だろう。そして、はたせるかな、井野さんたちはほどなくして、現実のものとすることができたのである。

決して広いとは言えないベルクの厨房

各分野の名職人たちとの素晴らしき出会い

 それは、コーヒーだけに留まらなかった。ソーセージ類やパン、ビールに関しても、素晴らしい名職人との邂逅があり、井野さんたちの真剣かつ誠実な口説きによって、彼らはベルクのために、日々、その力を遺憾なく発揮してくれることになった。

 例えばソーセージ類。上記のメニューの中のおつまみの(12)にある「ポークアスピック」を食べてみる。これは、豚の肩肉のブイヨンをゼリーにしたもので、要は「ゼリー寄せ」、あるいは「煮こごり」である。

 筆者はハム・ソーセージなど畜肉系製品が好きで、ドイツで修行し「マイスター」(親方職人)として認定され、なおかつ、国内の有力コンクールで金賞を受賞したような名人が作ったものを求めて、いろいろと食べ歩いてきた。しかしこのポークアスピックには、正直参った。驚くべきおいしさなのだ。

 「私たちも、まさにこの味にショックを受けまして(笑)、『是非、これを作っている河野さんにお願いしよう!』って思ったんですが、口説くのに、実に1年を要したんですよ」

 そうした苦労や努力の甲斐あって、ベルクのソーセージ類は、まさに逸品揃いである。

 パンもまた同様だ。パンの方は、迫川さんが東京中のパンを食べ歩いたという。「でも、そのお陰ですっかり胃をやられてしまいましてね・・・」(迫川さん)と当時の苦労をしのぶ。

 「あるオシャレでおいしいパン屋さんを見つけ、『これだ!』って思ったんですよ。マスタードやケチャップをつけなくても、ソーセージとパンだけでおいしかったのですから。それでくどき落として、そこのパンを使っていたんですが、ある時、ガクッと味が落ちたんです。先方にどんなに聞いても、『そんなはずはない。何も変わっていない』といった返答しか返ってこない。でも、実際には、石窯を止めて工場生産に切り替えていたんです。

 それでお取引を止めることにしました。それからは、またも足を棒にして、パン屋めぐりをしまして……。そして偶然なんですが、新宿の天然酵母の個人店(峰屋さん)と出会いまして、そのあまりの素晴らしさに感動して、そこの高橋さんにお願いすることにしたんです」(迫川さん)

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