コラム
» 2009年06月15日 07時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:「それも麻生さん」ということ。“鳩の乱”の幕切れ

“泥仕合”に陥っていた日本郵政の西川社長と鳩山総務相の対立は、鳩山大臣が辞任するという形で決着した。ここまで紛糾させた麻生総理に対し「リーダーシップの欠如」が指摘されているが、それでもひとつの見識がうかがえた。それは……?

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 泥仕合になっていた日本郵政・西川社長と鳩山総務相の対立。先週末、鳩山大臣が辞任することで決着した。

 鳩山大臣は、日本郵政が売却した「かんぽの宿」の資産評価の問題から始まって、中央郵便局の建て替えの問題、さらには郵便料金優遇制度の悪用の問題と追及し、西川社長の経営責任を問うた。そして西川社長の再任を認めないと断言し、それが「正義」だと主張したのである。

 西川社長はこれに対して、いったん引き受けた以上、途中で降りるわけにはいかないとこれまた強硬姿勢をとった。民営化を支持するオール財界をバックに頑張ったのだろうが、自民党の一部からも支援するとの声が伝えられていたはずだ。

政府は民間企業の経営に介入すべきでない

 そして麻生総理は決断した。鳩山大臣に翻意を促し、それができなければ辞任ということにした。西川社長の再任を原則的に支持したということだ。この決断は、麻生内閣にとっては苦渋の決断だったはずだ。ここまで紛糾させたことでリーダーシップの欠如を指摘されるからである。それに自民党内の賛成派と反対派の対立がより深刻化するということもあるだろう。

 しかし麻生総理のコメントで、政府が民間企業の経営に介入すべきではないというのはひとつの見識だと思う。確かに日本郵政はまだ政府が株主の「国営会社」。民営化の途上でなければ政府が人事に介入するのに何の問題もないのだが、民営化途上にあり、しかも同社の委員会が西川社長再任と言っているのに、所管の大臣が「正義」を振りかざして「絶対に認めない」などというのはやはりおかしな話なのである。

 この金融危機で、米国では金融機関の経営者に支払われる高額の報酬が問題になっている。オバマ政権は、この企業経営者の高額報酬に対して制限を加えることを検討してきた。結局は直接に法律で規制することはせず、報酬を決める取締役会の機能を強化するように求めることや、株主が決定された報酬に対して意見を表明しやすくするといった政策を打ち出すようだ。

 この件が大きな問題になったのは、昨年リーマンショックの後、政府資金によって救済された保健会社AIGの幹部に対する高額のボーナスが明らかになったことだった。とりわけAIGに高収益をもたらしたクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融デリバティブに関わっていた幹部連中が多額のボーナスを受け取っていることにオバマ政権も激怒したのである。なぜならこのCDSこそAIGを破たんさせた元凶だったからだ。

 議会ではサラリーに直接上限を設けようという声もあったが、オバマ政権はそれには反対している。税金を投入している企業の経営者に対しては、ボーナスなどの制限を加えるが、すでに税金を返済している企業については直接制限はしない。ガイトナー財務長官は「それは非生産的である」としている。

政府は上手な経営者ではない

 本来、違法行為がなければ、政府が民間企業の経営について口を出すのはおかしな話だ。経営の結果に責任を持たない政府が、株主の利害を左右することはモラルハザードを引き起こす源である。それに政府は決して上手な経営者ではない。オバマ政権が、事実上国有化したGMについて「経営する意思はない」としているのは、分をわきまえた姿勢だと言っていい。

 官僚は時には政策の失敗によって、国家に多大の損害を与えることがある。例えば狂牛病のときがそうだ。警告されていたにもかかわらず、欧州から肉骨粉を輸入して飼料として利用し、結果的に狂牛病を発生させた。そして全頭検査という世界的にはおよそ無意味とされる検査を実行し、その上、それまでの肉のストックを全量買い上げて焼却処分した(肉が売れなくなった業者が、輸入肉まで処分に回して税金をだまし取ったのが摘発されている)。これによる損害は総額で1000億円を超えるとされている。しかし肉骨粉の輸入を決めた幹部たちがその責任を問われることはない。

 民間の経営者だったらこうはいくまい。株主という目付役がいるだけでも相当違う。とりわけ機関投資家のアナリストなどは、業界事情に詳しく、無能な経営者は容赦なく追及される。そして株は売られる。

 もちろん民間だからすべてよくなるとは思わないが、少なくとも言えることは、政府が口を出せばろくなことにならないということだ。麻生総理も経営者であるだけに、さすがにこの原則論は譲れなかったということだろうか。そうだったらもっと早く手を打てばよかったのにと思うが、それも麻生さん、ということなのだろう。

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