トヨタのハイブリッド技術はホンモノで、ホンダはダメダメとの露骨な表現。それは、トヨタの「環境技術」のアピールでもある。
初代プリウスの登場は1997年。その頃からトヨタは「エコロジー」をポジショニングの中心に据えた。環境をテーマにした広告やイベント、各種スポンサード。これでもかと、「エコのトヨタ」「環境のトヨタ」をアピールしてきた。なぜか。自らのポジショニングを明確にするためである。
フィリップ・コトラーは著書『コトラーのマーケティング・コンセプト』(東洋経済新報社)の「ポジショニング」の項で、今日の米国ビッグ3凋落の理由を早くにして指摘している。いわく、欧州では、BMWが「究極のドライビングマシン」、ボルボが「世界一安全な車」と、メーカーのポジショニングが明確なのに対して、米国車は曖昧であると。
フルラインアップを揃える米国ビッグ3は、とりあえずラインアップのスキマを見つけては新車種を市場に投入する。そして、個別車種に後付けでポジショニングを行う。その結果、 GM、クライスラー、フォード各社は、自動車会社としてどんなポジショニングなのかが極めて曖昧になっているという指摘である。
ポジショニングは、消費者のアタマの中にどんな魅力があるのかが明確にイメージさせられていることがキモだ。その魅力が曖昧になるのは極めて危険なことなのだが、それに気付いていなかったわけだ。
同じフルラインアップメーカーのトヨタは、「これからの世の中で求められるのは『環境負荷の低減』である」と見抜き、「エコロジー」を掲げたのだ。自動車とは環境負荷を与える存在であるが、トヨタの車であれば、その負荷が低減できる。
景気の低迷によって、環境負荷よりも燃費性能に注目が集まっているが、やがては景気も回復するだろう。その時、再び「エコのオンリーワン」はトヨタであるというポジショニングが生きてくる。
トヨタ・ホンダ両社とも、さらにハイブリッド車種を増やしていくとの発表を行っている。ほかの自動車メーカーからの発売も続くだろう。その時、トヨタはどのような戦略に出るのだろうか。
圧倒的な力を持ったリーダー企業の総力戦。少々、背筋が寒くなる。
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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