アニメを海外に売り込む方法――映画プロデューサーの仕事とは(後編)(2/3 ページ)

» 2009年06月13日 07時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

プロデューサーに大事なこと

 僕が10年間プロデューサーの仕事をしてきて思うのは、「プロデューサーはどれだけリスクを回避することができるかで、プロとしてやっていけるか決まる」ということです。作品をヒットさせることが本当は大事なのですが、ヒットさせられなかったとしてもやけどをしないで継続できるか、プロとしてやり続けられるかが一番大事なのではないかと思っています。

 そのためには契約書の文言で相手方にやられないようにする、何か問題が起こった時にその責任を100%かぶらないようにすることなどが重要です。先ほど投資と融資と言いましたが、投資ではいただいたお金を人道的には返さなければいけないのですが、ごめんなさいということで返せないケースもあります。しかし、銀行からお金を借りたら、自分の家を売ってでも返さなければいけません。一生働いても返さなければいけないものなので、どうやってお金を調達するかはとても重要なことです。

 海外で仕事をする時にはどの為替で決済するかも重要になってきます。お金を集めるところとお金を回収するところ、この2つの通貨のどちらにするかで悩むのですが、僕はお金を回収する時にどこから一番多く回収するかを通貨選びの基準にするのがいいのではないかと思っています。結局市場が判断する問題なので、これはその道のプロのアドバイスを受けながらやってくださいと言うしかないですが、プロデューサーはそこまで目を光らせて判断しないといけません。

GONZO公式Webサイト

 監督がいなくなってしまうとか、僕自身が監督と喧嘩して監督をクビにしてしまうというプロダクションリスクも実際にあります。「プロデューサーと監督は物事を進めていく上で背中合わせ」と最初に言いましたが、背中合わせどころか槍を付き合うように仕事をしなければいけないケースもあります。誤解を恐れずに言うと、監督はものを作ることが優先順位の1位になる方が圧倒的に多いので、それにお金がいくらかかるか、どのくらいの期間かかるのかというのは基本的には2番目、3番目になります。でも、商売をする側はそうはならないですよね。「CGを使うと、髪の毛の1本1本の線がふわっと流れてきれいなんですよ」というのと、作品のストーリーがどれだけ関わっているのかと思うので、「このふわっとするのに1カ月かけてみました」と言われても、「僕は納得しません」という話がよくあります。

 でも作り手としては「新しい技術でこんなことを表現できた」と言えることが大きいので、そこをどうやってコントロールするか、おだてながらという言い方は良くないですがどれだけ信用して進めるかが重要なポイントになります。プロダクションリスクと言いましたが、ケンカをして最後、クビにすることまでを想定した契約書にしておいた方が分はいいと思いますし、僕の立場ではその時に監督に権利が残るような形にしない方がいいと思います。彼らの立場としては違いますが。人様のお金を預かって物事を進めていく責任を考えた時、何かトラブったことによって預かったお金が返せなくなった、事業ができなくなったというわけにはいかないですよね。

 また、日本ではあまり言われませんが編集権は重要なポイントです。アニメの場合は枠が90分だったら、90分ちょうどに作ります。1分余らすといったことは、コストがかかるのでほとんどやらないのです。しかし、実写の場合は長い時間カメラを回していいカットを撮って、編集するということをやりますよね。その編集を誰が責任を持ってやるかは実はとても重要なポイントで、編集の出来によって作品のメッセージも変わってしまう場合もあります。

 つまり編集権とは「誰が作品の責任を負うか」という話なのですが、日本では監督が編集権を持つケースが比較的多いと思います。一方、米国のアカデミー賞で作品賞を取った時に誰がオスカーをもらうかというと、監督ではなくてプロデューサーがもらうんです。なぜなら、プロデューサーが編集権を持っていて、作品の責任者であるからです。だからといって日本でも「編集権はプロデューサーのものです」と契約書に書くと、最後に監督と大もめになるケースが多々あるので、一番最初に編集権はどっちにするかを話し合って契約書に入れる必要があります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.