珍商売「講義ノート屋」凋落に見る、大学全入時代の病(2/3 ページ)

» 2009年06月12日 08時28分 公開
[中村修治,INSIGHT NOW!]
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イマドキ大学生の実態

 UNN加盟大(神戸大、同志社、立命、関学、阪大、関大、神女院大、京女大、京大)が実施した学生122人を対象にしたを無記名でアンケート調査によると、全体の73%が「講義ノート」の購入経験あり。業者の存在について、「仕方がない」とほとんどの学生(43%)が回答している。

 「講義ノート屋」を必要としなくなった昨今の真面目な学生の意識はどうなっているのだろうか。社団法人「日本私立大学連盟」がまとめた最近の学生生活実態調査では、(調査は4年に1度、調査票記入方式で実施。今回は2007年9〜10月、加盟する122私大の学生6639人が回答した結果)大学進学の目的では「大卒の学歴が必要」が50.2%でトップ。「家族、先生の勧めや友人も進学するから」(26.2%)とともに4.6ポイント増加。

 主体性に欠ける傾向は強まっているようだ。「自分のしたいことを探す」(35.7%)は5.7ポイント減。「自由、青春を楽しみたい」が4.2ポイント減。「より深く学んだり研究したい」も1.2ポイント減らした。大学生活で大切なことについては、「進級・卒業」(21.0%)が12.5ポイントの大幅な伸びを示した。「講義・ゼミなどの出席」(21.9%)や「良い就職先を見つける」(12.2%)も3ポイント前後増えた。

 代わりに「良い友人・先輩を得る」「趣味を生かし才能を伸ばす」「経験を豊富にし見聞を広める」「専門的知識・技術を習得する」は6.6〜3.2ポイント減らした。形式的な勉強を重視する姿勢が強まっている。

 どんな企業を志望するかでは、「安定している」(47.9%)が2ポイント増加し、トップに躍り出た。「給与が高い」(24.9%)も3.9ポイント増えて3位と、安定志向が強い。逆に、前回首位だった「自分の能力をいかせる」は38.1%と9.4ポイント減少して2位に転落。もともと少なかった「能力主義が徹底している」は3.5ポイントも減らし、2.9%に落ち込んだ。

 調査した私大連盟では「進級、卒業、就職という現実的意識が思いの外のしかかっている」としている。

 そういう学生が、社会人になるとどうなるのだろうか。日本経済新聞が2007年、20代の社会人を対象に「自由に使えるお金の使い道」(複数回答)について調査した。その結果、「貯蓄」を挙げた人が36.0%、2000年より8.2ポイント高くなっている。飲み代は29.6%が「お金がもったいない」。これは30代より10ポイント以上高い。

 乗用車を「持っている」は13.0%だが、2000年より10ポイント以上低下、家電や海外ブランド品など18品目も保有率が低下している。つまり、飲み代や買い物を節約し、貯金に回している実態が浮き彫りになる。

大学時代に必要な心がけとは?

 「大学入学志望者数」と「大学定員」が同じになる「大学全入時代」の学生は、主体性もなく、描ける未来もなく、形式的に勉強し、大卒の肩書きを必要とする企業に就職し、少ない給料に耐え、そこからのいくばくかを、大きな目的もなく貯蓄にまわす。

 ずいぶんと消極的で現実的な青春を過ごし、彼らは大量の「新しいプロレタリアート」となっていく。運動するどころか、抵抗もしない、新しい労働者階級の出現である。

 カミングアウトをするが、私は4回生の時の前期試験でカンニングをして戒告処分を受けたことがある。そんな私に、大学の教育をとやかく言う資格はない。バカ学生だった。「講義ノート屋」を必要としない現代の真面目な学生達を非難できない。

 しかし、こんな不良のおっさんではあるが、ひとつだけ言わせてもらう。

 大学時代に一番必要な心がけは、自分が知らないこと、自分ができないことに怯え続けることだと思うのだ。世の中は、しょぼくも、ちょろくもない。自分以外は、全部、凄(すご)いのではないかと感じて、自分が知らないことを、知り。自分ができないことを、できるようにする。その道筋を積極的に探し、悩んだりできたりするのが大学時代の特権である。社会人になって使える能力とは、その道筋が見えているかどうかにかかっている。

 20年そこそこの経験で培った、「自分の知ってること、できること」ででき上がった小さなフレーム=固定化した自己評価が、果たして、なんぼのものかを知ってほしい。

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