自転車はブルースだ、と忌野清志郎は言った郷好文の"うふふ"マーケティング(1/3 ページ)

» 2009年06月11日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター作品販売「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『ナレッジ・ダイナミクス』(工業調査会)、『21世紀の医療経営』(薬事日報社)、『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。2009年5月より印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン


 「自転車はブルースだ」という名言を遺したのは故忌野清志郎氏である。

 いったい自転車のどこがブルースなのか? ブルースとはもちろん黒人の演歌を意味するのだが、それだけでは忌野氏の真意は伝わりにくい。彼は著書『サイクリング・ブルース』でこう語る。「楽しくて、つらくて、かっこいい。憂うつで陽気で踊り出したくなるようなリズム」、それが自転車でありブルースだと。

 お尻をひょいと上げてペダルをこぐ。バランスを取って背中をピンとする。凹凸いっぱいの道路のリアリズムと向き合い、風に押し戻され、自動車や歩行者と駆け引きする。悲しくても、こぎだせば心はポジティブになる。ママチャリにも本格的なバイクにも、サイクリングにはブルースがある。

ムラのある立ちこぎ屋

 ある朝、忌野氏の死と自転車のことを考えて自転車をこいでいた。気付くと、前を行く自転車に接近していた。紳士服量販店のヤワな背広を着る若い男性は、やおら“立ちこぎ”に移行した。サドルに腰掛けないで自転車をこぐスタイルだ。

 しかし彼の立ちこぎは足に体重が乗っておらず、立ちこぎの割にとても遅い。しかもペダル何回分か立ちこぎをすると、右足を下、左足を上にした立ちポジションになって、惰性だけで走る。止まりそうなスピードまで落ちると、再び立ちこぎをして勢いをつける。スピードが上がると、また立ちポジションで惰性走行。その繰り返しなのだ。走りにムラがあって、立ちこぎのエネルギーがモレ漏れである。

 なんてヤツだ。道交法順守ときどき自己解釈の私は、スピードを上げて走るタイプ。邪魔なので軽く追い越した。だが追い抜いて信号待ちをしていると、立ちこぎ屋が追いついてきた。「何てことだ、フン」と思ってペダルを力んで踏んだが、生活者洞察をメシの種とするマーケティング屋として気付いた。立ちこぎ屋にも、彼なりの“リズム&ブルース”があるのだ。

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