“破たん予備軍”の汚名を返上した? 実態は「以前と変わらない」の声も

» 2009年06月08日 18時40分 公開
[ZAKZAK]

 監査ルールの緩和によって、2009年3月期に32社(表)が“破たん予備軍”の汚名を返上したことが、帝国データバンクの調査で分かった。会社経営を続けるうえで重大なリスクがなくなったことはいいことだが、市場では「甘くなったルールの恩恵を受けているだけで、実態は以前と変わらない会社が随分ある」(アナリスト)との指摘も。投資家はまだまだ注意が必要なようだ。

監査ルールの緩和で恩恵

監査ルールの基準緩和や業績改善により、ぴあや競泳水着レーザー・レーサーを販売するゴールドウインなど32社の注記が外れた

 上場企業などの経営者は、会社の経営を続けるうえで重大なリスクがあると判断した場合、リスクの中身と対応策を有価証券報告書などで開示しなくてはいけない。

 さらに、その企業の財務をチェックする監査人も、監査報告書のなかでリスクを「注記」として明記し、投資家に注意を促す。

 注記が記された企業は“イエローカード企業”の意味合いがあり、市場では“破綻予備軍”とみなされる傾向がある。

 03年3月期から導入されたこの制度は、「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)」と呼ばれるが、100年に一度の経済危機を乗り切るため、金融当局は特例措置として09年3月期から基準を緩和した。

 「これまでは決算期末で債務超過の場合、増資計画があっても注記が付いたが、将来的に実行確実な増資計画が示せれば注記をつけなくてもよくなった」(アナリスト)という。

 帝国データバンクの調査では、08年12月期に注記が付いた企業は231社。このうち、32社が次の四半期である09年3月期に注記が外れた。

 「不況が深刻化しているにもかかわらず注記が外れたということは、ほとんどが基準緩和の恩恵によるもの」(ベテラン会計士)とみられる。

09年3月期決算で「注記」をはずした32社(クリックですべてを表示)

 注記が外れた出版・チケット販売のぴあは、09年3月期連結決算が2年連続の最終赤字だった。が、第4四半期(09年1〜3月)に単独で黒字を確保。10年3月期は通期で黒字となる見通しとなったことから、注記が外れた。

 スポーツ用品のゴールドウインは、09年3月期決算で連結・単体とも営業黒字に転換。自動車用品のイエローハットも、金融機関の借り入れ契約で条件変更が成立したことから、それぞれ注記が外れた。

 注記を記す基準が緩和されたのは、100年に一度の経済危機によって財務内容が悪化する企業が急増したため。本来の基準で判断したら、産業界は“破綻予備軍”であふれ返ってしまう。

 さらに、「衆院選挙を控え、企業の信用不安が広がるのを避けたいとする政治的な配慮もあるのだろう」(アナリスト)との見方もある。

「企業の真の姿が見えない」

 ただ、基準緩和で“破綻予備軍”の数が減ったのはいいが、企業の真の姿が見えづらくなったとの声は少なくない。証券アナリストが次のように指摘する。

 「ぴあが、第4四半期に単独で黒字になったからといって注記を外すのはどうかと思う。黒字は通期で判断するのが筋。LTTバイオファーマは(10年3月期に連結当期純損益の)黒字化を見込み、子会社の譲渡益などで資金繰りも十分とするが、説得力が弱い。アセット・インベスターズも注記を消すほど収益・財務基盤が安定しているとはいえない」

 帝国データバンク情報部の江口一樹部長は「今回の緩和は緩めすぎの印象をぬぐえない。注記を外した企業のなかから経営破綻するところが相次いだら、どうするのか」と危ぶむ。

 万が一、そのような事態になったら、企業や監査人は投資家からばく大な損害賠償を求められる恐れが出てくる。

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