オバマのChangeが日本にもたらす悪夢(1/2 ページ)

» 2009年06月08日 12時30分 公開
[竹林篤実,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:竹林篤実(たけばやし・あつみ)

東大寺学園高校卒業、京都大学文学部卒業。印刷会社営業職、デザイン事務所ディレクター、広告代理店プランナーなどを経て、2004年にコミュニケーション研究所の代表。ブログ:「だから問題はコミュニケーションにあるんだよ


 オバマ政権が誕生して5カ月弱。「Change」を合言葉に誕生した新政権は、世界をどう変えていくのだろうか? 宮台真司『日本の難点』にあった興味深い視点をもとに考えてみた。

「愛される米国」

 宮台真司『日本の難点』(幻冬舎新書)にとても興味深い視点が記されていた。少し引用する。

 「『オバマのアメリカ』はニつの柱を持ちます。第1は『愛される米国』。第ニは「集積効果」。第1点から説明しましょう。オバマは10万人の雇用に1兆円使う計算で300万人の雇用を生み出すことを含めた、大規模な財政出動を宣言しています。目下の状況では不可避不可欠な「ケインズ政策」です。

 でも米国は大規模な財政赤字と貿易赤字を抱えます。金融崩壊以前はドル建ての投資を呼び込むことでドル暴落を防いできました。もはやこの手法が使えない以上、中国や日本や諸外国に米国債をドル建てで買ってもらう以外ありません。米国が高飛車な態度を取ることは全く不可能になりました(同書、170ページ)」。

 オバマ氏の「Change」は、まず「(米国債を買ってくれる国=中国、日本、その他から)愛される米国」に変わること。これが宮台氏の見立てである。

「愛される米国」と中国の関係

 米国債がどうなるのか。これは、世界中に散らばっている米国債を持っている国、投資家の最重要関心だろう。中でも中国である。同国は2008年9月、日本を抜いて世界最大の米国債保有国となった。

 中国が約56兆5600億円、日本は55兆4200億円(関連リンク)。わずかとはいえ中国の方が米国債をたくさん持っている。もちろん、これで打ち止めではない。これからの米国は、300万人の雇用を維持するために30兆円の財政出動をする。財源は国債である。その引き受け手として期待されているのは、誰か。まず第1には中国であり、続くのが日本なのだろう。

日本にとっての米国、米国にとっての日本

 では、米国の視点から見れば、中国と日本にはどんな違いがあるだろうか。『日本の難点』によれば、日本は以前から米国の年次改革要望書の要求に従っていたという。

 「あまり知られていませんが、学校完全週休2日制実施も、郵政民営化も、裁判員制度導入も、米国資本に有利なゲームへとシフトさせるべく、米国が年次改革要望書で要求していたことなのです(前掲書33ページ)」

 これが事実だとすれば、米国債の受け入れ要求に対しても日本は抗う術を持たないことになる。米国の年次改革要望書を見たわけではないので、その存在と内容については判断を留保する。

 けれども戦後の日米安保、米国による日本の安全保障維持から食糧確保、さらには自動車業界に象徴される日本のメーカーの米国依存状況などを総合的に踏まえるなら、日本と米国が「抜き差しならない」関係、それも日本が米国に対して従属的であることはほぼ間違いないのではないか。

日米関係と日中関係の違い

 では米国にとっての中国とは、どんな存在になるのか。日本同様、年次改善要望書を中国にも出すことは可能だろうか。答は「あり得ない」のである。

 つまり日本に対して米国は高飛車に出ることはできても、中国に対して同じ態度を取ることは絶対に無理ということだ。さらに突っ込むなら「米国債」を人質に取られた米国が今後、中国のご機嫌を損なうような行動をとることは一切できない、とも考えられる。

 だから国内情勢がようやく落ち着きかけた時点で、まずガイトナー財務長官が中国に出向いた。目的は1つ、今後も継続的に米国債を買い支えてくれるよう「頭を下げる」ことだったはずだ。ちなみに今回ガイトナー氏は日本をスルーしている。GMの破たん処理の合間を縫っての訪中とあれば、いつでも言うことを聞く日本にリップサービスしにくる余裕はなかったのだろう。

 逆にいえば、GM処理が絡んでいるだけに、何としても今は中国の協力が必要だったということではないか。

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