日本は軍事に目覚めつつあるのか? 本気で考えなければならない安全保障藤田正美の時事日想

» 2009年06月08日 08時10分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 小沢一郎代表の辞任で民主党が俄然、党勢を盛り返している。何とか点を稼がなければならない麻生太郎首相は、民主党の新しい顔になった鳩山由紀夫代表に、財源問題やら安全保障問題などで攻勢をかけている。

 とりわけ、北朝鮮の核実験やミサイル発射実験で神経をとがらせているときとあって、民主党の安全保障政策は「理解できない」とこき下ろす。特に攻撃の焦点となっているのは、日本に駐留する米軍は「第7艦隊だけで十分」という小沢発言だ。

日本は軍事に目覚めつつあるのか?

 確かに「第7艦隊だけで十分」という議論はやや乱暴に聞こえる。しかしどの程度なら十分で、どの程度なら不十分なのか、というとその線引きはなかなか難しい。というよりも、要するにこの北東アジアの情勢によって変わってくるという方が正確だろう。

 実際、北朝鮮の核実験はある意味で衝撃であった。3年前にも核実験をしているが、そのときは「失敗」したと見られていたが、今回はその点からは著しく改善したというのが、外国も含め、おおかたの評価だろうと思う。核爆弾を作る能力があることはこれで示されたわけで、それをミサイルか飛行機に搭載すれば他国を攻撃することが可能になる。いまのところ、何らかの運搬手段に搭載できるほど小型化されていないと考えられているが、それも時間の問題かもしれない。

 麻生首相の言葉を借りれば、「日本を敵視する国が核武装しつつあるというときに、日本はどうするか」というのは大難問だ。自民党の一部からは「自衛隊が敵地攻撃能力を持つべき」という声も聞こえている。外国のある研究機関はこの情報に注目して「日本が軍事的に目覚めつつある」と書いていた。

 外から見ればそう見えるのは当然かもしれない。何と言っても、日本の自衛隊はその名の通り、外国を攻撃する能力がない。自衛隊を引退した幹部によれば、「もし日本のどこかの島が占領されたら、それを単独で奪回する能力は自衛隊にはない」のだという。戦力的にいえば、世界でも有数の軍隊であることは間違いないが、そこには「専守防衛」というたががはまっている。航空自衛隊には地上を爆撃する能力はないし、海上自衛隊には地上を大規模に攻撃する能力はない。地上部隊を大量に輸送するための船も少ない。

 だから北朝鮮が核武装すれば、日本の自衛隊は「自衛のために」敵地を攻撃する能力がほしいという議論になる。ただ北朝鮮ということを考えた場合、それはあまり現実的な議論にはなりにくいのかもしれない。

 発射されれば7分とか10分で日本に着弾するとされているミサイルだから、攻撃されないためには先制攻撃によってミサイル攻撃基地をたたくという話になる。そうするとミサイルの発射準備がされていることを察知したとして、その標的が日本であることが「確認」され、宣戦布告はされていないが、日本を攻撃する意図があるとして総理大臣が宣戦布告をして攻撃命令を下すということになる。これは国内的にも国際的にも受け入れられる議論ではあるまい。

 しかも自衛隊が欲しい「敵地攻撃能力」とは巡航ミサイルだ。このミサイルについては、米国から導入するということになるのだろうが、米国がそれを日本に売却する可能性はないだろう。北朝鮮はもとより、それでなくても軍拡に熱心な中国を刺激するだろうし、ロシアも反対することは必至だからだ。何と言っても巡航ミサイルは核弾頭を搭載することが可能であり、これを日本が保有するということは、「核の運搬手段」を手に入れることでもあるからだ。

本気で日本の安全保障問題を考えなければいけない

 もう1つ、北朝鮮の核武装から出てくる日本の選択は、自らが核武装することである。日本が「報復能力」を持てば、北朝鮮も日本に核攻撃をかけることはあるまいという議論だ。それこそ米ソの核軍拡競争の論理である。そして日本を標的とする核弾頭の数を上回る核弾頭を持とうとする。それはおよそ無駄なことだろうし、それで核攻撃されるリスクが減るわけではあるまい。

 戦後、安全保障に関しては米国に「おんぶに抱っこ」だった日本(もちろんそれが米国の国益に適ってもいたのだが)。北朝鮮という不安定な国が隣にいるばかりに、本気で日本の安全保障問題を考えなければいけないときに差し掛かっているように見える。ただ経済の先行きが不透明で、しかも日本の将来の形を描きつつ改革を進めていかなければならないこの時期には、いちばん望ましくないテーマかもしれない。

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