フィットはなぜ売れ続けるのか? ロングセラーの秘密郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年05月28日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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斜め後方45度のデザインが販売を左右する

 フィットのライバル車の同じ部位を見てみよう。

トヨタのヴィッツ(左)、日産のキューブ(右)

マツダのデミオ(左)、ホンダの2代目フィット(右)

 トヨタヴィッツは素っ気ない。4枚ドアのエンドを手堅くまとめたという風情で面白みに欠ける。アシンメトリー(左右非対称)の日産キューブのデザイン処理はスゴイ。ドライバーが死角になりがちな左後方をガラスにする合理性だけでなく、左右の非対称デザインが新鮮である。マツダデミオは、サイドのウェッジラインを重視して、リアクォータウィンドウを削った。ウエッジシェイプを効かせるのはスポーティ車の定石だが、その分ガラスは狭くなり庶民の運転しやすさからは離れる。

 「手堅いヴィッツ」に「奇抜なキューブ」そして「スタイリッシュなデミオ」。形容詞そのまま2008年度の販売実績に表れた。ヴィッツ11万台(3位)、デミオ5万8000台(10位)、キューブ4万7000台(17位)。ちなみに現行2代目フィット(2007年10月モデルチェンジ)では、前方の三角窓が大きくなったが、リアウインドウの形状は初代を踏襲している。

金融恐慌後、消費者はしらふになった

 大衆的過ぎずデザインに溺れることもない。劣化しない価値。それがヒットの理由である。その価値を“メタ・リアリティ”と呼ぼう。メタとは“超える”、リアリティは“現実”である。地に足の付いた商品価値を極めつつ、どこか現実を超えた価値を実現する商品。金融恐慌後、そんな“メタ・リアリティ”商品がウケるようになってきた。

 それまでは、大衆を細分化し差別化する戦略がマーケティングの定石だった。「カローラ」はその代表例で「カローラ アクシオ」「カローラ フィールダー」「カローラ ルミオン」など“カローラ顧客”を切り分けて需要を維持してきた。ターゲティングをしっかりさせて、デザインやパッケージングで差別化を図るキューブやデミオも差別化だ。だがどれにも大きな手応えがなくなり、クルマ離れが顕著になった。

 金融恐慌を境に、消費者は素面(しらふ)になった。

 購買層は所得減におちいり、流行に踊る消費者を演じることに疲れた。ブランドショップやセレクトショップを冷ややかに見出した。ブランド物語は空々しく響き、(高いだけの)化けの皮が剥がれた“ブランド記号消費”にはサヨウナラ。自分のこだわりにこだわることさえ、どこか不自然になった。

 だがメタ・リアリティのある商品・店舗はいきいきしている。ユニクロ、しまむら(参照記事)、IKEA、無印良品。サンダルの「クロックス」もそうだ。微妙に泥くさく垢抜けない、全世界市民共通デザインがウケる。

 売れない理由……買い過ぎ・タンスがいっぱい・ワクワク商品不足。もっともだが核心を突いていない。金融恐慌後の消費者は、本質的な価値のあるものなら、万人が買おうと少数が選ぼうとウエルカムなのだ。メタ・リアルな価値があれば買うのである。

クロックス
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