アキバメイドが語る! メイド喫茶産業の舞台裏(後編)現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(2/4 ページ)

» 2009年05月26日 07時00分 公開
[森田徹,Business Media 誠]

@ほぉ〜むcafeの大衆戦略

 メイド喫茶大手@ほぉ〜むcafeの話を始める前に、少しだけメイド喫茶の資本関係について書いておこう。

 女の子が給仕するという業態のイメージから、メイド喫茶にも反社会的なブラックマネーが流れ込んでいるかと思いきや、そういった怪しげなバックグラウンドがあるものはむしろ少数派であるようだ。実態としては全くの個人が夢を追って運営していたり、オタク関連商品の物流を扱っている会社がプロモーションの一環として行っている場合が多く、系列化も進んでいない。ほとんどが1店舗展開だ。あいりちゃんの店も、個人の独立経営だ。

 アキバメイド喫茶業界で最大手の@ほぉ〜むcafeでさえ5店舗展開(そのうち、4店舗はアキバ内の同じビルに入居している)で、2007年の栃木県宇都宮市を足がかりとした地方進出には失敗しているので、なかなか資本の蓄積も進まないのだろう。

@ほぉ〜むcafeWebサイト

 また、メイドのキャラを立たせるだけの放任経営が多く、新メニューや価格の決定についてもメイド自身が行っている場合が多いので、ノウハウの蓄積が進まない傾向にある。メイドを束ねる“メイド長”(無論、雇用形態としてはアルバイトである)が、実質的に店舗の運営をしているケースも少なくない。

 そんな中で@ほぉ〜むcafeの独自性を考えると、やはりマニュアルを用いた管理経営と、メディア戦略に行き着く。

 「アット(@ほぉ〜むcafe)は、萌え萌えじゃんけんとか、そういったイベントを徹底してマニュアル化していて、一見の観光客でも楽しめるという面が強いかな?」とはあいりちゃんの弁だが、マニュアル化のせいで失ったものも多いようである。

 「うちの店舗を含めて、普通はチェキとかのバック(マージン)はないんだけど、2007年頃にアットがバックマージン制を始めて、チェキのノルマとかまで作ったみたいなの。その時に、そういうのが合わなくてアットを辞めた子が多いみたいで、ほか(のメイド喫茶)に流れたみたい。だから、うちのお店もアット出身の子がスゴく多い」とのことだ。

 現在の@ほぉ〜むcafeはあっとぐみに代表されるように、マスメディア露出を狙ったアイドル業をメイド喫茶業と並行して行っており、感覚としては“会いドル”(会いに行けるアイドル)路線で差別化を図っているAKB48に近い。その中から何人かのグラビアアイドルも生まれているようだから、アイドルの登竜門としても小さな成功を生み始めているようだ。あっとぐみのメンバーの顔写真を見ても確かにカワイイ。

 だが、ルックスやキャラ作りがあまりに大衆化しすぎていて「アイドルならばもっとスター性のある子がいるし、会いに行くならばAKB48で十分。それってメイドである必要はあるの?」という問いに答えきれていない感がある。これが、初期のメディア戦略が効を奏したメイドブームが終わった今、サブカルと大衆化の間で揺れ動く@ほぉ〜むcafeの課題だろう。

 メイド喫茶やその関連業界全体に言えることだが、地方展開の様子を見ていると今のままではコスプレ・キャバクラやイメクラ※と何が違うのかがイマイチはっきりしない。業態が喫茶店のままでは利益率も改善しないし、現状ではメイドあるいは“2.5次元”の世界観が何ら定量的な付加価値になっていない。それならば地方展開をする時に、わざわざメイド喫茶というポジショニングを行う必要もない。さらに言えば、そのポジショニングのせいで、逆に一般の客を遠ざけているきらいもある。

※イメクラ……イメージクラブの略。風俗店の一種で、女性従業員が学生服やナース服などさまざまなコスチュームを着るのが特徴。

 オーナーの皆さんが夢を追って経営している傾向があるので、ゆっくりと新規顧客が減少し、淘汰が行われている現状がそのままで良いというのならばそれでもいい。だが、メイド喫茶を新たな文化として、全国へ、そして世界へ展開するのならば、もうちょっとこのあたりをはっきりさせた方がいいのではないのかな? と感じる次第である。

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