アキバメイドが語る! メイド喫茶産業の舞台裏(後編)現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(1/4 ページ)

» 2009年05月26日 07時00分 公開
[森田徹,Business Media 誠]

著者プロフィール:森田徹

1987年生まれ、東京大学経済学部経営学科在学中、聖光学院中高卒。現在、東大投資クラブAgents自民党学生部などのサークルに所属している。投資・金融・経営・政治・コンピュータ/プログラミングに興味を持つ。リーマン・ブラザーズ寄付講座懸賞論文最優秀賞、日興アセットマネジメント主催「投信王 夏の陣」総合個人優勝。主な著書に『東大生が教える1万円からのあんぜん投資入門 』(宝島社)


 「メイドにホスピタリティーを学べば、癒やし系男子になれるに違いない!」という理由で始めた、女子大生メイドあいりちゃん(メイドネーム)へのインタビュー。前編では、メイド喫茶の歴史や各店舗のポジショニングを見ていく中で、「別にメイド個々人には大してホスピタリティは必要ない」というがっかりな結論になってしまった。

 プライベートのあいりちゃんは、飲み会を開くとなったら、わざわざ事前に飲み屋に料理の打ち合わせに行くほど細やかな気配りを持ち合わせている子なので期待していたのだが、前回の記事に肩すかしだった印象を受けた読者も多かったのではないだろうか。実際、筆者自身も肩すかしだった。申し訳ない。

 そういった理由で、前編ではある意味“調べれば分かる”程度の情報しか書けなかったわけだが、後編ではお金の話を中心に、オフレコな裏話についてあいりちゃんに語ってもらった。

 →メイド喫茶の内側は? 現役メイド「あいりちゃん」に聞く(前編)

夢で飯は食えない

 前編で書いたように、あいりちゃんの勤める店舗は「時代物なのだが時代設定が無茶苦茶」といった類の、設定に凝ったコンセプトカフェである(そもそも歴史をしっかり勉強してきた人が少ないので、まともにそんなことを指摘するのはあいりちゃんくらいしかいないらしい)。駅の側にあるメイド喫茶は多いが、あいりちゃんの店はJR秋葉原駅から徒歩5分程度とやや遠め。また、後述する@ほぉ〜むcafeの戦略の変化により、業界大手の同店から転職してきたメイドも多いので、メイドの質としても平均的だと思って構わないようだ。

 あいりちゃんのお店の売り上げは平日8万円(営業時間17時〜22時、常連客が9割)、休日17万円(営業時間12時〜22時、常連客と観光客が半々)程度だそうである。1週間の売り上げは74万円という計算になる。これに加え、たまに行われる誕生日や卒業といったイベント日は様々な付加サービスがついて売り上げが2〜2.5倍になるようである。

 また、チャージ料は300円と比較的安いため、チャージ料を含めた客単価はドリンクのみの場合で1000円ほど、夕食の場合でも2000円ほど。そのため、回転率を上げるために90分ワンオーダー制をとっている。席数は30席ほど。価格帯としては少し高いファミレス程度で、同じく夢を売る商売であるディズニーランドより感覚としては安い。

 メイドは総勢25名弱、通常は4〜5人のメイドでシフトを回しているようだ。また、アキバのメイドの時給の相場は850〜1000円で、あいりちゃんの店は900円。シフトに入るメイドを4.5人と考えると、1週間で営業時間が45時間、準備・片付けに1〜2時間かかるとすると労働時間は52〜59時間となり、メイドたちへのお給金は1週間で21万〜24万円ほどになる。売上高給与比率を計算してみると28.4〜32.4%程度だ。

スターバックスWebサイト

 ちなみに、比較対象としてスターバックス・ジャパンの2009年度3月期から計算してみると売上高給与比率は27.8%、上場廃止直前のドトールコーヒーの2008年2月期の中間期から計算してみると約12.2%となる。

 ドトールの数字が低いのは全1468店のうち1155店(2007年9月末時点)がフランチャイズ店と、直営店が少ないからで(直営比率21.3%)、比較対象としては全854店のうち、フランチャイズ店が28店しかないスターバックス・ジャパンの方がより業態としては近いだろう(直営比率96.7%)。

 巨大資本チェーンと独立店舗を比較するのは酷かもしれないが、大してメイドの給与が高いわけでも、チェキ※や様々なイベント商法などスタバ以上の高付加価値高価格戦略がうまく行っているという印象でもない。不思議なものである。

※チェキ……メイドさんとのツーショット写真を撮れるサービスのこと。

 ちなみに、スタバの売上高原価比率は29.6%なのだが、売上高給与比率が同程度であることから推察するにメイド喫茶でも同程度だろう。こんなにボロい商売なのに、諸々の費用を差し引くと売上高経常利益率は6.0%程度なのだから、商売とは不思議なものである。

 また、スタバの販管費からメイド喫茶では少ないであろう広告宣伝費を足し戻すと、経常利益+広告宣伝費の売上高比率は約7.0%になる。これをそのままメイド喫茶に当てはめると(実際にはスケールメリットが働くスタバの方が有利な数字になる気はするが)、あいりちゃんの店の年間(52週間)のオーナー収入は269.4万円になる。実感としては妥当な数字だが、夢を追って飯を食うことは、現実にはなかなか難しいようだ。

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