さらにもう1つ、恐ろしい指摘がある。テレビを見ていると、脳の処理能力が楽をする。楽をすると、人は本来持っている能力を失っていく。クルマが人間の歩く力を弱らせてしまったように。テレビに関する3つめの原罪とは、人間の脳の能力を弱らせることだ。
なぜ、テレビを見ると脳が楽をするのか。この問いに答えるには、テレビで時々問題になるサブリミナル効果の話が参考になる。サブリミナルとはテレビで放映されるフィルムの中のわずか1コマに、本来の内容とはまったく関係のない絵を差し替えていることをいう。
サブリミナルは問題があるとして、この手法をテレビ番組で使うことは禁止されている。なぜ、問題があるかといえば効果がある可能性があるからだ(現時点では確実に効果があると言い切れるだけの実証データはないらしい)。
ただ経験的には効果がありそうだということで、意見はほぼ一致しているようだ。つまり脳はテレビ番組から与えられる情報量くらいは潜在意識下で楽に処理している可能性が高い。逆にいえば、同じ京都の風景を対象としても、リアルにその場所に立って見るのとテレビで放映された画面を見るのとでは、伝わってくる情報量には莫大な差があるのだ。
ということは、テレビを見ていると脳は明らかに楽をしていることになり、楽をしている時間が長ければ長いほど(=脳が楽をすればするほど)脳が本来持っている能力は衰えていくことになる。
「人間というのは、自分の才能の10分の1も知らずに死んでしまう動物なんだ」『マイ・ビジネス・ノート』(今北純一、文春文庫)
逆にいえば、人間の才能は自分が思っているよりもはるかに大きく豊かなのだ。その才能を使わないのは余りにももったいないではないだろうか。とりあえずテレビを見る時間を減らす、絞る。それだけでも脳は楽をしなくなる。視覚、聴覚に過度に依存するのではなく、嗅覚、味覚、触覚を意識して使う。そのことによりおそらくは、人が本来持っている感覚は研ぎ澄まされ、第六感を養うこともできるだろう。
普段の暮らしの中で、少し心掛けを替えるだけでもっと自分の能力を使う生き方がきっとできる。子どもは特に、そして大人だって決して手遅れではない。始めるなら、今からだ。(竹林篤実)
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