コラム
» 2009年05月23日 11時00分 UPDATE

あなたの隣のプロフェッショナル:遺品整理人が語る、孤独死の現実――キーパーズ 吉田太一社長 (1/5)

遺品整理人として何百件もの孤独死の現場に向き合ってきたキーパーズの吉田太一社長。働き盛りの年代の男性に多い孤独死の現場とはどのようなものなのか、そしてなぜ吉田さんは遺品整理人となったのかを尋ねた。

[嶋田淑之,Business Media 誠]

「あなたの隣のプロフェッショナル」とは?:

人生の多くの時間を、私たちは“仕事”に費やしています。でも、自分と異なる業界で働く人がどんな仕事をしているかは意外と知らないもの。「あなたの隣のプロフェッショナル」では、さまざまな仕事を取り上げ、その道で活躍中のプロフェッショナルに登場していただきます。日々、現場でどのように発想し、どう仕事に取り組んでいるのか。どんな試行錯誤を経て今に至っているのか――“プロの仕事”にロングインタビューで迫ります。インタビュアーは、「あの人に逢いたい!」に続き、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏。本連載では、知っているようで知らない、さまざまな仕事を取り上げていきます。


ah_y1.jpg 吉田太一さん

 孤独死……「気の毒なことではあるが自分とは無縁のこと」と対岸の火事を決め込んでいるビジネスパーソンが大多数ではないだろうか。

 しかし、それはとんでもない間違いだと警鐘を鳴らす人物がいる。日本だけではなく世界にもかつて存在しなかった「遺品整理業」という業種を創出し、これまで数百数千の孤独死の現場を見てきた吉田太一さん(44歳)だ。“遺品整理”という言葉から想像されるような無口で地味な人物かと思いきや、大阪弁が心地よい、人懐っこい笑顔の魅力的な、どこまでも明るいキャラクターの人物である。

「世間では、高齢者の孤独死ばかりが注目される傾向がありますが、65歳以上になると、行政の介護対象になるので、人知れず死んでゆき、何カ月も発見されないというケースはそれほど多くはありません。むしろ、50歳から65歳くらいの働き盛りの年代の男性に孤独死は多いんです」と驚くべきことを話す。

 「遺品整理業」という職種への社会的関心は、着々と広がっている。同氏のブログから火がつき、その内容は『遺品整理屋は見た!! 天国へのお引越しのお手伝い』(扶桑社)など4冊の著書にまとめられた。2008年5月16日にはテレビ朝日で『遺品の声を聴く男』(奥田瑛二、安達祐実主演)と題した2時間サスペンスが放映されたほか、フジテレビ系列でも金曜プレステージ枠(21時〜23時52分)で吉田さんの著作のドラマ版(地井武雄主演)の放送も予定されている。シンガーソングライターのさだまさし氏も、吉田さんやその仕事に感銘を受け、この5月20日に『アントキノイノチ』(幻冬舎刊)という単行本を出した。

ah_y2.jpg 吉田太一さんの現実ブログ「現実にある出来事の紹介」

 創業から約7年。愛知県刈谷市に本社を置き、名古屋・東京・大阪・福岡に支店を展開して、今や年商4億円以上、年間依頼件数1800件に達する企業へと遺品整理のキーパーズは成長した。

 今年、映画『おくりびと』がアカデミー賞を受賞し、葬儀周辺産業に世間の注目がさらに集まったこともあり、吉田さんは本業の遺品整理だけではなく、各種講演、研究会出席、テレビ・雑誌の取材など、過密なスケジュールをこなす日々だ。

 孤独死多発年齢の筆者はもとより、本稿読者の皆さんにとっても他人事ではないだろう「働き盛りの孤独死が多い」とはどういうことなのか? そもそも遺品整理業とはどのような仕事なのか? それを創出した吉田さんとはどんな人物なのだろうか? 今回はそれを明らかにしていきたい。

働き盛りが孤独死するまでの典型的なケース

 働き盛りといえども、リストラや倒産などで職を失うケースは少なくない。しかも、今の不況を考えると、納得のいく再就職口を見つけることは容易ではない。次第に生活は苦しくなり、借金は増え、夫婦間での喧嘩も多くなる。そして訪れるのが離婚だ。

 しかし、それまで仕事一筋で一心不乱に頑張ってきた男性に「生活力」はない。毎日次から次へと押し寄せてくる生活上の細々とした用件を適切に処理していくことができない。家の中には、ゴミが溜まり、洗濯物も溜まり、請求書の山ができ、家の中は荒れていく一方となる。

 それでも体が健康なうちは、アルバイトに出かけるなどして多少の収入を得ることもできるかもしれない。しかし、かつてはそれなりにエリートを自認していたような男性にとって、将来の夢を奪われ、心の支えの家族さえ失った状況は、まさに耐え難い状況である。

 「自分は、一体何のため、誰のために生きているのか。自分など、所詮、世の中にとってゴミのようなものでしかないのではないか?」

 そんな思いにとらわれて、次第に鬱々とした気分の中に深く沈みこんでいく。次第に何をするのもおっくうになり、やがては体を壊し、ゴミ屋敷然とした家の中で、寝たり起きたりの日々を過ごすようになる。

 ここで重要なことは、この過程で「社会との接点」を次第に喪失していく点だ。基本的には定職がないので、「人と会う」機会はおのずから減る。自分の落ちぶれた姿を見せたくないので、昔のクラスメートはもとより以前の仕事仲間とも会いにくくなる。親兄弟や親戚に対しては、こうしたケースではたいてい彼らに借金していたりするので、さらなるお金の無心と、返済を遅らせるお願い以外、接触しないということも多い。

 自分の殻に閉じこもって鬱々と過ごす日々の寂しさ、みじめさは、他人にはうかがい知ることはできない。誰も援助の手を差し伸べることなく、やがて彼は憤死するのだ。

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