なぜ週刊誌は訴えられるようになったのか?集中連載・週刊誌サミット(2/3 ページ)

» 2009年05月22日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

訴える目的は名誉? ウソだ

 もう1つは訴えられるときは、「名誉棄損損害賠償請求」という形になる。しかし明らかに名誉の回復を目的としていないのだ。例えば朝青龍側※が勝訴したとき、彼はいみじくもこう言った。「カネの問題ではない。名誉の問題なんだ」。でも、これはウソだ。じゃあ、何のために(出版社を)訴えてくるのか。答えは(我々を)黙らせるためなのだ。

※『週刊現代』が朝青龍と30人の力士から提訴されていた一連の八百長疑惑記事で、総額4290万円支払えという超高額賠償金が言い渡された。

 また賠償金額が高額化している理由は、(出版社を)黙らせるため。昔はこういう手段があった。記事に対して文句を言って来る人がいれば「じゃあ、反論を書きませんか」「反論インタビューをしませんか」と提案してきた。つまり記事によって名誉を棄損していたとすれば、反論することで名誉を回復することもできた。ところが今は、そういう申し入れに対し、乗ってくる人はほとんどいない。

 いきなり訴えてきて、しかも高額の賠償金。それは「書くな」または「黙れ」という意味にしか考えられない。

 最近タチが悪いこととして、名誉棄損訴訟をビジネスにしている人たちが増えてきたことだ。司法改革によって、弁護士の数が非常に増えつつあり、仕事がない弁護士がたくさんいる。そういった弁護士が「この記事、訴えたらどうだ?」「500万円は取れるぞ!」などと、書かれた側に営業をかけ、メディアを訴えようとしている。

 要するに雑誌側は「訴えられ損」なのだ。訴えられると、裁判のためにものすごいエネルギーが必要になる。弁護士を頼まなくてはいけないし、経済的な損失もある。先ほど私は「(裁判で)負けていない」と言ったが、こちらが勝っても、向こうからカネをくれないのだ。向こうは名誉棄損を請求しているだけで、その請求が棄却されるだけ。

 でも考えてみてください。まずは向こうが「お前の記事で名誉棄損されたぞ」と訴えてきた。これに対し、裁判で我々が勝った。(この構図は)いわば“いいがかり”じゃないですか。いいがかりをつけてきているくせに、そいつらは自分たちの弁護士代は払わなければならないが、それでおしまい。で、もし勝ったらカネが取れる。こんな不公平なことはない。

政治家であれば反論できる

 さきほど『週刊現代』の加藤さんが言っていましたが、こちらは取材源を秘匿しなければならないというハンディがある。こちらに立証を求められても、非常に難しいというか、不利な立場にある。訴えている側はカネを取ろうとしているわけだから、彼らが立証するのが常識だと思う。

 さらに高額訴訟について言うと、懲罰的な意味も含んでいる。もし懲罰的な訴訟ということであれば、やはり訴える側が立証する責任があると思う。また有名人であればあるほど高額の請求をしてきて、結果、高い金額を支払わなければならないケースが増えている。だけど考えてみてほしい、政治家であればいくらでも反論できるのだ。

 安倍晋三さんが総理大臣のときに、安倍さんの秘書から訴えられた※。安倍さんは記事が掲載された直後から、あらゆる所で記者会見を開き「『週刊朝日』にデタラメを書かれた」「捏造記事だ」「インチキだ」とさんざん言ってきた。当時は総理大臣の発言なので、そのたびに多くの新聞が取り上げた。

 例えば夕刊フジには「朝日提訴」という見出しが出ている。よく読んでみると「『週刊朝日』の記事はウソだ。デタラメだ。捏造だ」などと書いてあった。これで(反論は)十分ではないだろうか。結局、我々はこの件について「和解金を支払わない」という形で決着した。

※『週刊朝日』は、「長崎市長射殺事件と安倍首相秘書との『接点』」とする見出しの新聞広告を掲載。安倍晋三首相の元秘書飯塚洋氏らは名誉を傷つけられたとして、発行元の『朝日新聞』や『週刊朝日』の山口編集長などに計4300万円の損害賠償と、謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こした。

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